2024年07月17日( 水 )

現代アートの島巡り「瀬戸内国際芸術祭」に行ってみた(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 香川県の瀬戸内海の島々や港で3年に一度開催されている現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭」は、直島や豊島などの瀬戸内海に浮かぶ12の島が舞台となっている。美しい島の自然とアートを楽しみに、これまで国内外から多くの人が訪れており、前回(2019年度は118万人が来場した。現代アートと豊かな自然の魅力が多くの人を呼び、「島おこし」のきっかけにもなっている瀬戸内国際芸術祭に行ってみた。

 現代アートを鑑賞できる「地中美術館」や集落の古い家屋などを生かした作品「家プロジェクト」がある直島から、豊島・家浦港に高速船で渡る。所要時間は約30分。瀬戸内海は小さな島々が連なっていて、海の交易が盛んだった場所であることが伺われる。

一瞬一瞬で作品の表情が変わる「豊島美術館」

 「豊島美術館」は瀬戸内海が見渡せる豊島の唐櫃の岡の上に建っている美術館だ。美術館のまわりが公園のような自然で囲まれていて、広島県出身のアーティスト・内藤礼氏の作品「母型」が公開されている。美術館の入り口から芝生に囲まれた遊歩道を進むと、丸みがあってまるで白い水滴のような建物が現れる。この美術館では、作家の世界観を体験できるのだ。

豊島美術館の作品「母型」の外観(写真:鈴木研一)
豊島美術館(写真:鈴木研一)

 さっそくなかに入ってみると、ひんやりとした丸い天井に囲まれ、白を基調としたシンプルで静かな空間が広がる。天井にあたる上の部分に2つの大きな丸い窓があり、ガラスがないため、吹き抜ける風を感じることができる。その音に耳をすませると、この日は晴れていて青い空が見えた。

 自然を取り込んだ作品「母型」のもう1つのテーマは巡りゆく水だ。1つの作品でも鑑賞するタイミングによって、まったく異なる雰囲気になることが、この作品の醍醐味だ。季節や天気によってまた違った表情を見せるのだろう。

古民家を改修したレストラン「島キッチン」

島キッチン
安部良「島キッチン」

 「島キッチン」は唐櫃岡の集落の空き家となっていた古民家を改修し、建築家の安部良氏が設計したアート作品となっているレストランだ。アートと食を楽しめる空間で、人々の出会いの場となることを目指してつくられた。外のオープンテラスは、大きな日除け屋根があって、外の空気を感じながら食事ができる。豊島は瀬戸内海の温暖で雨の少ない地域にあり、カラッとした空気のため、テラスで過ごすのが心地よい。

島キッチン オープンテラスの大きな日除け屋根
オープンテラスの大きな屋根
安部良「島キッチン」

 豊島の南側の甲生地区の海辺には、オーストラリアの現代アーティストのヘザー・B・スワンとギリシャ生まれの建築家のノンダ・カサリディスが制作した「海を夢見る人々の場所」の作品がある。この作品は2022年春会期に初公開された新作だ。浜辺にたたずむ作品はベンチになっていて、座って瀬戸内海の豊かな海を眺めると、この作品が表現したかったことが伝わってくるようだ。

ヘザー・B・スワン+ノンダ・カサリディス「海を夢見る人々の場所」
ヘザー・B・スワン+ノンダ・カサリディス
「海を夢見る人々の場所」

 瀬戸内海の島々の豊かな自然と現代アートを楽しめる瀬戸内国際芸術祭。同じ作品でも天候や時間など訪れる時によって変わるため、「一期一会」でもあり、その場所に足を運んでこそ魅力を味わえるアートばかりだ。瀬戸内国際芸術祭で、多くの若者が島を訪れ、移住も進んでいるという。訪れる人も住んでいる人も両方が元気になれることが、これからの観光を生かした町おこしの要になるのではないだろうか。

(了)

【石井 ゆかり】

(中)

関連記事