2024年12月23日( 月 )

【脊振の自然に魅せられて】シャクナゲの縦走路

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 山の樹木は厳しい環境下で生きている。そのため、毎年たくさんの花を咲かせるわけではない。春に咲くシャクナゲ、ハイノキ(白い小さな花の群衆)はとくにそうである。

 5月1日(月)、脊振山系縦走路の小爪峠登山口から鬼が鼻岩の頂上まで歩いた。佐賀県側にある金山脊振林道を利用すると、登山口から小爪峠までは20分で登ることができる。50代のころは、撮影のために福岡市早良区の「湯の野」バス停近くの登山口から小爪沢の登山道を2時間近くかけて登っていた。60代後半からは旧国道263号線の三瀬峠を越え、この林道を利用している。

 12年前に設置した登山口の道標は、まだしっかりしている。4年前に追加で取り付けた小型道標を確認しつつ登り、小爪峠に着いた。この日は平日で、登山者も少なく静かだった。小爪峠の道標近くで休んでいると、福岡市側の登山道から1人の男性が登ってきた。声をかけてみると短時間で登ってきたのだという。初対面ながら山の話になる。その後、ザックを背負ったこの男性の後を追うことにした。後ろ姿を撮影したかったからである。この男性と前後で会話をしながら、猟師岩山へと歩を進める。

猟師岩山の道標周辺に咲くツクシシャクナゲ
猟師岩山の道標周辺に咲くツクシシャクナゲ

 15分も登ると猟師岩山の近くにある岩がみえてきた。「今年のシャクナゲはどうだろうか」と気になる。「咲いていますよ!」先に歩いていた男性から声がかかる。幸い撮影条件に最適なガスも湧いており、シャッターチャンス到来である。今年、初対面のシャクナゲは、まだ七分咲きで、蕾もつけている。シャクナゲとの対面に感動しながらシャッターを切る。一匹の蜂が羽音を鳴らし、シャクナゲの花のなかに潜り込んでいるのが見えた。

ツクシシャクナゲの蕾、蕾が開くとピンク色になる
ツクシシャクナゲの蕾、蕾が開くとピンク色になる

 それから3分で、鬼が鼻岩山(893m)に着いた。ここは岩山で、その昔、猟師が岩場に隠れて獣を待ち続けたことから、この名がついたとされている。ここにも道標を設置している。12年前、小雨が降るなかワンダーフォーゲル部の学生たちと設置した道標である。

 道標の周りにシャクナゲが咲いていた。ここに咲いたのは久しぶりのことである。「脊振のシャクナゲは霧を吸って生きている」と語る古老もいる。それだけ厳しい環境で生きているということだ。

 ここから比較的平坦な縦走路が続く。緩いアップダウンを繰り返しながら先に進む。登山道の左右は、淡いピンクの花を咲かせたシャクナゲの縦走路となっていた。撮影記録を見ると、シャクナゲの花が咲き乱れる縦走路になったのは、実に10年ぶりである。

たくさんの花を咲かせたツクシシャクナゲ
たくさんの花を咲かせたツクシシャクナゲ

 縦走路を歩き続けると、顔がシャクナゲ色に染まったかのようだった。それほど見事に咲いているのである。岩に上がり、高い場所や、広いシャクナゲ林に入って撮影を続けた。

 やがて岩場のピークに着いた。私のお気に入りの休憩場所である。真下には新緑の山、遠目には脊振山が聳えている。ここから油山、その奥には博多湾が一望できた。

 シャクナゲが側で咲き、静けさのなか小鳥のさえずりが聞こえてくる。最も山を満喫できる瞬間である。展望を楽しみながら、コーヒーを飲み、あんパンで腹を満たして山をおりた。

 2日後、ワンゲルの後輩3人を誘い、同じ場所を歩いた。蕾は開き、前回とは違うシャクナゲの姿があり、後輩たちは感動に浸っていた。撮影に夢中のH、ただ歩くだけのO、OGが、それぞれ岩場からの展望を楽しんだ。

展望を楽しむ後輩たち、博多湾が霞んで見える。
展望を楽しむ後輩たち、博多湾が霞んで見える

 ここから小爪峠へ戻り、違うシャクナゲの林に行ってみたが、花をわずかに付けている程度で期待はずれだった。場所によって咲き方が違っていたのである。後日、同じメンバーで別のシャクナゲの林に行ってみた。ここでは10本ほどのシャクナゲがすべて咲いていた。この場所のシャクナゲは、毎年何本かは花を咲かせるが、すべての木に咲を咲かせたシャクナゲ林を見るのは初めてである。

 今年ほど、花を咲かせたたくさんのシャクナゲを見たのは初めてだ。筆者も80歳が目前に迫ってきた。これほどすばらしいシャクナゲの縦走路を見られる機会は、今後ないかもしれない。脊振山系の山並みが、いかに素晴らしいかを再認識している。

※シャクナゲは学名ツクシシャクナゲで、淡いピンクの花が特徴

2022年6月7日
脊振の自然を愛する会
代表 池田 友行

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