2024年12月22日( 日 )

【福岡IR特別連載88】長崎IR政府審査基準(案)には最初から不適合

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カジノ ラスベガス イメージ    先日、岸田政権下のカジノ管理委員会は「特定複合観光施設区域整備計画法に基づくカジノ事業の免許等の処分に関する審査基準(案)」を示し、パブリックコメントを開始するとした。

 パブリックコメント制度とは1999年3月に閣議決定後、2006年の改正行政手続法の施行により法定化されたもので、簡潔に説明すると名称の通り、各行政機関は広く一般からの意見を募り、公正さと透明性を確保して、本件事業にあたらなければならないと規定しているものだ。至極当然の話である。

 前号で解説したように、本件IRの当該地ハウステンボス(HTB)を実質上の経営するエイチ・アイ・エス(HIS)が、世界的なコロナ禍のなかで、ここ数年にわたり巨額な赤字を出し続け、今期は過去最大の損失を計上した。

 その傘下であるHTBも同様に危機的状況にあるにもかかわらず、長崎県や議会ならびに佐世保市行政と議会、さらに福岡市財界の一部の関係者たちは、先日、国に対して、こぞって本件IRの「区域認定申請書」を提出しているのだ。

 これらは、パブリックコメント開始以前の彼らの支離滅裂な行動である。重ねて説明するが、本件IRの本家本元のハウステンボスがいつどうなるかもしれないのに、一方の当事者である県行政を含む前述の人たちが「薔薇色の夢」を描いて、国への区域認定申請を実行するなどは、気が狂っていると言っても過言ではない。

 誰がどう考えても、本件IRの当該地隣接のハウステンボスは、切っても切れない“パッケージ”なのだ。一方の経営者の「親方」が巨大な損失を出し続けている環境下で、それを無視して「夢の計画」を提出するなど常識では考えられないことだ。すべてに辻褄の合わない彼らの行動とその計画である。途中で同園が閉鎖されたり、売却されたりすれば、長崎IRは成り立たない!

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 これらを積極的に協力・応援している元JR九州の石原氏や九州電力の名誉職・松尾氏ら福岡財界の一部の人たちは、このハウステンボスの現状を「知らなかった」と言って済ませるのか。もしそうなら無責任極まりない話である。では、それを知っていてのことなら、より無責任な話となる。いずれにしても問題なのは、彼らの奇怪な姿勢とその行動だ。

カジノ事業免許の厳しい審査基準案とは?

 まず、主な審査基準案を具体的に列記しよう。

・本件事業等のリスクが顕在化し、カジノ事業の収益が見込みよりも下振れした場合にも、将来にわたって設置運営事業を継続できる規模の純資産を保持すること。

・設置運営事業に関わる施設整備などについて、資金が安定的な手段により調達されていること、および将来にわたって必要となる資金調達が確実であること。

・カジノ事業の安定的な実施に必要な流動資産を保有すること。

 これが今回の審査基準案の主たる内容であるが、今期、長崎県行政が政府に提出している「区域認定申請書」には、前述の基準以前の具体的な資金調達先などが一切記載されておらず、その透明性も公正性もない。要は、当該地ハウステンボスの現状は申請書提出以前の問題で、IR審査基準にはまったく則らず、すべて論外である。

 上記の大前提である「本件事業等のリスクが顕在化し…将来にわたって」だけを見ても、当該地ハウステンボスを運営するHISの経営危機として、すでに“高いリスクが顕在化”しているわけで、将来もクソもない現状だ。これは誰が考えても明白なのである。

 長崎県とカジノ・オーストリア・インターナショナル・ジャパン(CAIJ)が共同で作成・提出している198ページに上る「区域認定申請書」の中身のすべては、隣接するハウステンボス施設との連携や共同利用ならびにコンセプトの共有などをうたっているのだ。従って、長崎IRは隣接のハウステンボスと運命共同体であると言ってよい。

 それが、一方は過去最大の損失計上で相当に厳しい経営危機であり、一方は年間637万人が来訪するという「薔薇色の夢」のような天文学的数値の計画を立てて、国に申請しているのである。

 こんな内容の長崎IRハウステンボスについて、国がこのたびの区域認定申請にを承認するはずもなく、申請書提出はすべきでなかったし、県議会などがこれを可決するなど、それ以前のお粗末さである。

 上記の福岡財界の一部関係者たちは、この不変的な状況を変えるために、今回のIR誘致開発事業に賛同・協力したのだろうが、これらは理屈に合わず、まことに稚拙でずさんで理解不能である。こんな基本的なことも分かっておらず、そして管轄の長崎県行政にその能力はない。

 この現状に際して、HISが「背に腹は代えられぬ」として、この機に第三者に転売でもしたらどうするのか。それは本件「区域認定申請」そのものの目的を成さず、崩壊を意味するものでまったく話にもならない。

 彼らは長崎県行政関係者とのつながりなどは希薄で、これを忖度するはずもなく、自らの危機的経営状態のなか、もし実行しても責められるべき問題ではない。従って、長崎県行政は最初から大きな過ちを犯している。

 従って、前述のJR九州や九州電力の現役責任者たちは、それぞれの元上司や先輩を忖度している場合ではなく、このような「区域認定申請書」をいかにも九州を代表して提出しているがごとく装っていることに異を唱え、このような恥ずべき結果になっていることをそれぞれ素直に反省すべきである。

 むしろ、速やかにハウステンボスを本件“運命共同体”から外し、第三者に転売するという判断のほうが正しいといえる。これが同園の閉鎖危機を逃れる一番良い方法かもしれないし、今がチャンスともいえる。従って、本件IR事業をハウステンボスに併設するというアイデア自体が最初から誤っているのだ。

 本件IR誘致開発事業は、重ねて解説しているように、巨大な後背地人口を有する大都市圏の3カ所である東京、大阪、福岡市中心の北部九州都市圏においてしか、絶対に採算は合わないのである。

【青木 義彦】

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