2024年12月23日( 月 )

円キャリーではない、バフェットキャリーだ~日本資産デフレの最終章~(前)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は6月27日号の「円キャリーではない、バフェットキャリーだ~日本資産デフレの最終章~」を紹介。

日銀YCC政策に挑戦したヘッジファンド

 世界の中央銀行が軒並み金利引き上げに走るなかで、唯一緩和姿勢を厳守している日銀との対比が鮮明になっている。この世界トレンドから孤立したイールドカーブコントロール(YCC)という日銀政策に無理があるとするヘッジファンドの投機ポジションが、市場を揺さぶっている。英ヘッジファンド、ブルーベイ・アセット・マネジメントは10年国債利回りを0.25%に抑えるYCCは円の急落を招き、日銀は円安阻止のためにYCC政策の放棄と10年国債利回りの上昇を容認せざるを得なくなると読み、日本の国債売りを仕掛けている。

 中央銀行の政策にヘッジファンドがチャレンジするという事態はG・ソロス氏のイングランド銀行(BOE)への挑戦を思い起こさせる。今回も1992年当時と同様に、日銀がヘッジファンドに敗れ金融政策の変更を余儀なくされるとの観測が市場を不安定にしている。実際、日銀のYCCの外にある超長期債利回りは急上昇し、市場金利に大きなゆがみが表れている。世界金利のアンカーである日銀がヘッジファンドに敗れて政策変更を余儀なくされれば、その連鎖は世界金融市場を揺り動かす。円売り、日本国債売り、株売り、まさに日本売りだ、日銀売りだ、という投機筋の声が聞こえる。

図表1: 主要国の長期金利/図表2: 日本国債のイールドカーブ

1992年英国のような二律背反はない

 しかし、今回の日銀は1992年当時のBOEのようなジレンマに陥ってはいない。92年イギリスは通貨安を容認するか、景気対策としての金利引き下げをあきらめるか、の二律背反状況にあった。90年にイギリスは為替変動幅を基準レートの±2.25%に収めることを義務付けるERM(European Exchange Rate Mechanism:欧州為替相場メカニズム)に加盟しており、通貨安を引き起こす利下げという選択肢はなかった。

 しかし、イギリスがERMの盟主であるドイツによって金融政策を縛られるという状態に持続性はないと読んだG・ソロスはポンド売りを仕掛け、イギリスは利下げを選択してERMから離脱した。ソロス氏は巨額の利益を手に入れた。

円キャリートレードの活発化と限界

 日銀も投機筋に敗れるという思惑は低金利の円で資金を調達し、高いリターンの外貨資産に投資する運用、つまり円キャリートレードを引き起こし、日本国債売り、円売りの連鎖を引き起こしている。これに弾みがついたことで、円安が加速する局面がしばらく続いていくかもしれない。しかし、金利差と為替レート差の両方で利益が得られるダブルキャリーの状態は永遠には続かない。

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 第1に、ドル円レートは購買力平価から4割も乖離した史上最安値状態にあり、いつでも高所恐怖症を引き起こすレベルにある。第2に、米国の金利上昇を引き起こしているインフレもすでにピークアウトの状態で、これ以上の日米金利差拡大は起きないかもしれない。第3に、そもそも円安は本質的に日本経済と雇用・投資にポジティブであり、2%のインフレ定着を目指す日銀が円安を止めなければならない理由はない。とくに参院選挙が終われば、選挙政策としてのインフレ・円安対策の重要性は下がってくる、などの事情がある。円高への反転リスクも相応にあり、ここで円安にベットする戦略が大きな趨勢になっていくとは思われない。

(つづく)

(後)

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