電通の「鬼十則」は絶滅危惧種になる?(前)
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広告業界の帝王、(株)電通で新入社員が過労自殺した問題は、11月7日、東京労働局などによる大規模な強制捜査という異例な展開になった。刑事事件として立件されることになる。日本社会では、長時間労働の慣行やサービス残業が常態化している。働き方改革が求められるなか、電通の社是と言うべき「鬼十則」は、絶滅の危機だ。
厚労省が電通の「鬼十則」の体質を本格追及
2015年12月25日、新入社員の高橋まつりさん(当時24)が自殺した。高橋さんは東大卒業後の15年4月に電通に入社し、インターネット広告などを担当した。本採用となった10月以降、業務が増加し、11月上旬にはうつ病を発症したとみられる。東京都内の社宅から投身自殺した。
高橋さんは「土日も出勤しなければならないことがまた決定し、本気で死んでしまいたい」「休日返上で作った資料をボロくそに言われた もう体も心もズタズタだ」などの言葉を会員制交流サイト(SNS)で発信していた。16年4月13日、高橋まつりさんの遺族が労災を申請。9月30日、三田労働基準監督署は労災を認定した。発症前1カ月の残業時間は月約105時間に達したと認定。2カ月前の約40時間から倍増していた。
これまで電通では、過労死が続いた。三田労働基準監督署が電通本社に是正勧告した矢先に、高橋さんが自殺した。
10月14日、事態を重く見た東京労働局などが、電通本社や支社の立ち入り調査を開始。労働管理の状況を調べていたが、悪質性が高いとみて11月7日強制捜査に切り替えた。捜索には、東京、大阪の過重労働撲滅特別対策班(通称・かとく)のメンバーが加わった。14年11月、過労死防止法が施行。「かとく」は、重大性や悪質性の高い労働基準法違反を取り締まる役割を担うため、15年4月にベテランの労働基準署の監督官を集めて、東京、大阪の労働局に新設された。
厚生労働省の薬物犯罪の捜査を行う麻薬取締官を「マトリ」と呼ぶ。企業の過重労働の撲滅を担うGメンが「かとく」だ。「かとく」が加わり、計90人という異例の大規模捜査体制を敷いた。刑事事件として立件するため、本格的な追及に乗り出したのだ。電通社長の働き方改革は「鬼十則」を否定
電通は9月1日、石井直社長を本部長とする「電通労働環境改善改革本部」を発足させた。高橋まつりさんが過労で自殺した問題を受け、過労死を生まない労働環境へ改善する。
「かとく」の立ち入り調査を受けた直後の10月24日、労務管理の改善策の一環として、深夜の残業を防止するため午後10時から全館を消灯した。消灯は翌日午前5時まで。ほかにも、月ごとの残業時間の上限を11月は5時間引き下げ、私的な情報収集などを理由とした在社を禁止するなどの対策を取り、長時間労働の抑制を図る。
電通の社内は大混乱に陥った。顧客との打ち合わせの関係上、広告マンは朝型より夜型が多い。午後10時消灯は迷惑な話だっただろう。電通の石井直社長は、厚生労働省の「かとく」の家宅捜索を受けた11月7日、本社内のホールで、社員に改革方針を説明した。説明会の映像は全国の支社で中継された。
報道によると、石井社長は「従来の働き方は社会に認められる状態ではない」と、業務量や組織運営の見直し、多様の働き方を認めるなど変革の姿勢を強調したという。電通社員を驚かせたのは、電通の社是と言うべき「鬼十則」を否定する内容であったからだ。
高橋さんの過労死の背景には、「鬼十則」を是とする企業風土が指摘されてきた。石井社長が「鬼十則」を否定する発言をしたため、電通マンが仰天したわけだ。(つづく)
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