2024年11月26日( 火 )

米国につき従ってどこへ行こうというのか(前)

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日米中関係 イメージ    「日本はこのままでいいのでしょうか。岸田さんは一体中国との関係をどう考えているのでしょうか。『環球時報』が掲載した『十字路にある日本の対中政策』という論評を浅井基文氏のウェブサイトで読みました。本当に今日本は大きな分かれ道に立っていると懸念を深くするばかりです…」

 日中経済界の大先達から電話をいただいた。その声音と言葉には日中関係の現状とこれからへの、とりわけ岸田政権の対中国政策への、深い憂慮が込められていた。50年前の日中国交正常化に田中角栄氏と手を携えて歴史的な役割をはたした大平正芳氏が重きをなした宏池会出身総理ということで、政権発足時、岸田氏に大きな期待感を語っておられた方であるだけに、ここでの憂慮はとても重い響きをともなっていた。ちょうど、シンガポールで今月10日から開かれた「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」における岸田首相や岸防衛相の発言に思案をめぐらせていた時だったので、深く胸に迫るものでもあった。今回の「アジア安全保障会議」で岸田首相は「平和のための岸田ビジョン」を掲げ基調講演を行った。

 「我が国が位置する東シナ海でも、国際法に従わず、力を背景とした一方的な現状変更の試みが続いており、我が国は断固とした態度で立ち向かっています。この2つの海の間に位置する台湾海峡の平和と安定も、極めて重要です」と述べて「アジアに迫り来る挑戦・危機にこれまで以上に積極的に取り組む」と防衛力の抜本強化を表明するとともに、「自由で開かれたインド太平洋」の推進計画を来年春までに策定するなど、「インド太平洋を超え世界の平和と安定の礎となった日米同盟の抑止力と対処力を一層強化していく」「オーストラリアや有志国との安全保障協力も積極的に進めていく」ことを強調した。

 こうした立ち位置の背景として「先般日本を訪問されたバイデン米国大統領との会談において、防衛力に関する私の決意に対する強い支持を得ました。日米の安全保障・防衛協力を拡大・深化させていく、この点でも一致しました」と、米国・バイデン政権の存在を隠すことなく、むしろ前面に出して主張したのだった。日本の首相によるシャングリラ会合での演説は2014年の安倍晋三氏に続く2人目となったが、「今回の首相の中国に関する言及は安倍氏よりも踏み込んだといえる」と評したメディアもあった。

 また、この「会議」の場を使って、岸防衛大臣と中国の魏鳳和国務委員兼国防相との日中防衛相会談が約2年半ぶりに対面で行われた。岸防衛相は、尖閣諸島周辺海域を含む東シナ海および南シナ海で、中国による「力を背景とした一方的な現状変更の試み」がみられる、さらに「台湾海峡の平和と安定は我が国のみならず、国際社会にとっても極めて重要だ」と「台湾問題」にも言及したほか、さらに加えて、中国海軍の空母「遼寧」が日本周辺海域で訓練を実施している、5月下旬に中国、ロシア両軍の戦略爆撃機が日本周辺で実施した共同飛行を「示威行動」と指摘するなど、それぞれに重大な懸念を伝えたという。まさしくメディアが「岸氏は次々と注文を付けた」と伝えるごとく主張を重ねたわけである。会談は当初予定の30分を大幅に越えおよそ70分におよんだ。

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 会談終了後、岸氏は周囲に「火を付けちゃったかな」と語ったという。「岸氏『問題行動』次々指摘」と見出しを打ったことと合わせ、岸氏の「得意然」としたその場の雰囲気が伝わってくるメディア報道であった。しかし、岸氏が次々と挙げた「問題行動」と合わせ、東シナ海はじめ中国周辺海域で展開された日米、さらには英豪独仏なども含めた各種共同軍事訓練などについては一切顧みられることはなかった。すなわち、何をもって「脅威」あるいは「示威行動」と見るのか、立場を変えれば風景は一変するということをも含め考えるのが「安全保障対話」というものであろう。


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