エイチ・アイ・エスの再建計画~カジノ誘致も視野に205億円でハウステンボスの敷地を売却(前)
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カジノを含む複合型リゾート施設(IR)の整備計画を大阪府と長崎県が観光庁に申請した。政府は有識者らでつくる委員会で審査し、認定地域を決める。上限は3カ所だが、2カ所とも決まるとも限らず、1カ所も認定されない可能性もある。長崎県は佐世保市のリゾート施設「ハウステンボス」の隣接地に建設を計画。ハウステンボスを運営する旅行大手エイチ・アイ・エスにとって、IRを誘致できるかは再建計画の大きな柱になる。
海外から673万人の来訪を見込む
地元・長崎新聞(4月13日付)は、長崎県が佐世保市のハウステンボス(HTB)への誘致を目指すカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の区域整備計画案を報じた。開業5年目の2031年度には国内と海外から約673万人が来訪し、カジノ施設の延べ利用者は約291万人を見込んでいる。
IRの延べ床面積は64万2100m2で、主にカジノ行為に利用する区画は2.82%の1万8,106m2。バカラなど富裕層向けのゲームができるテーブルを約400台、スロットなどの電子ゲームを約3,000台配置する。
MICE(コンベンション)施設は、国際会議場部分に約1万4,400人、展示場部分に約1万3,140人を収容。宿泊施設はタワーホテルや旅館など4タイプあり、計約2,500室を備える。日本の魅力を発信する「ジャパンハウス」や医療を提供するメディカルモール、ショッピングモールも整備する。
開業5年目の売上は約2,716億円、うちカジノ部門が74%の約2,003億円と試算。経済波及効果はIR施設への投資で約5,428億円、来訪者の消費で約3,328億円(開業5年目)とし、直接・間接費用は約9,700人となる見通し。
資金調達は4,383億円を想定
長崎県はIR設置運営事業予定者の「カジノ・オーストリア・インターナショナル・ジャパン」(CAIJ)と共同で計画案を作成。3月に計画案を一度公表したが、資金調達は未確定で、はたして資金調達できるのかが危ぶまれていた。
長崎新聞は、「(県の最終案は)資金調達は、事業用不動産サービスで世界最大手のCBRE(米国)が支援するとしたが、融資する金融機関や出資する企業名は明記しなかった」と伝えた。
最終案によると、資金調達の総額は約4,383億円。このうち、国内外の金融機関からの借入金などが約2,630億円、企業などの出資金が約1,753億円と想定している。
CBREは大型不動産開発やカジノ業界の投資銀行業務で実績がある。27年秋ごろのIR開業に向け、国内外の企業や金融機関からの資金調達を支援するという。県は資金調達先を公表しなかった。いやできなかった。見切り発車したということだ。
IR誘致の目玉は世界初の海中カジノだった
19年4月8日、ハウステンボス(HTB)(株)の澤田秀雄社長、長崎県の中村法道知事、佐世保市の朝長則男市長は、HTB所有地をIR候補地とすることで基本合意した。同年9月、佐世保市とHTBは建設予定地の売却価格を205億円とすることで話がついた。
IRの誘致候補地はHTB内の用地30haで、HTBの総敷地面積の5分の1にあたる。このなかにはHTBの中心施設であるホテルヨーロッパなどが立地している。土地は売却するが、HTBはIR運営事業者として名乗り上げないことを明らかにした。カジノ列車から降りたのである。
HTBの再建の柱はカジノだった。官民による「西九州統合型リゾート研究会」が経営破綻したHTBの起死回生策として09年、カジノ特区を申請したが、法的な壁にはばまれ頓挫した。
旅行大手のエイチ・アイ・エス(株)(HIS)が10年4月にHTBを子会社にして再建に乗り出した直後から社長になった澤田氏は、「カジノに挑戦したい」と公言し、HTB再建策の中心にカジノを据えた。カジノ誘致に成功した場合、「来場者が年間100~200万人増加する」と試算していた。
18年7月、カジノ実施法が成立。澤田氏が掲げたIR誘致の目玉は、世界初となる海中カジノだ。海中カジノは海面下の壁を大型の強化ガラスにした特別施設で、海中を泳ぐ魚の様子をながめながらゲームを楽しむことができる。建設場所はHTBが面している大村湾を想定していた。
あれほどカジノ誘致に情熱を傾けていた澤田氏が、カジノから手を引いた。なぜか?
中国の大手投資会社・復星集団から出資を受け入れる計画
澤田氏にとって、19年は大きな出来事があった。19年2月、HTBと中国の大手投資会社・復星集団(フォースングループ、上海市)が進めていた出資協議が中止になった。当初の計画では、復星集団の出資比率は24.9%、HISが50.1%、残りを九州電力(株)やJR九州(株)など5社が25%を保有し、復星が取締役を派遣する。
澤田氏が復星の出資を受け入れるのは、HTBの足元の入場者数が伸び悩んでいるため。復星が送客をしてくれる期待があった。中国人の集客増などを通じてHTBのテコ入れを検討していた。
一方、復星の出資目的は、中国で本格的なテーマパークを展開するため。そのノウハウを手に入れるのが狙いだ。だが、出資交渉は破綻した。両社とも理由を明らかにしていない。
(つづく)
【森村 和男】
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