エイチ・アイ・エスの再建計画~カジノ誘致も視野に205億円でハウステンボスの敷地を売却(後)
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カジノを含む複合型リゾート施設(IR)の整備計画を大阪府と長崎県が観光庁に申請した。政府は有識者らでつくる委員会で審査し、認定地域を決める。上限は3カ所だが、2カ所とも決まるとも限らず、1カ所も認定されない可能性もある。長崎県は佐世保市のリゾート施設「ハウステンボス」の隣接地に建設を計画。ハウステンボスを運営する旅行大手エイチ・アイ・エスにとって、IRを誘致できるかは再建計画の大きな柱になる。
澤田氏の経営者人生の最大の汚点は「リクルート株詐欺」
ハウステンボス(HTB)の経営に情熱を傾けていた澤田氏が、HTBから距離を置くようになったのは、ある事件がきっかけである。「リクルート株詐欺」に引っかかったことだ。
澤田氏が50億円の詐欺被害に遭った事件とはこういうものだ。
2018年2月、HTBで金に裏付けられた電子通貨(テンボスコイン)を企画した際、金の調達を一手に引き受け、澤田氏に高く評価された金取引会社社長・石川雄太氏のもとに、こんな話がもちかけられたことがきっかけだった。
「リクルート創業者の江副浩正氏が、安定株主対策として預けた株が財務省に大量に保管されている。財務省とリクルートの承諾があれば、ワンロット50億円といった大口に限り、市価の1割引程度で供給される」。
瞬時に5億円の利益がもたらされる。およそ眉唾ものの話だが、よほどセールストークがうまかったのか、石川氏はワンロットの購入を決め、澤田氏に相談して資金提供を受けた。当然のことながら、リクルート株を購入できるはずもなく、50億円は消えてしまった。
石川氏は18年11月、58億3,000万円の支払い求めて、東京地裁に提訴。被告は、数々の詐欺事件で有名な8人。石川氏は詐欺グループのカモにされた。その石川氏に50億円を提供したのが、HTBの澤田秀雄氏だった。
東証上場へ向けて準備を進めているHTBにとっては、詐欺被害の原資が澤田氏の要請でHTBから出ていることは、上場審査が不合格にされかねない不祥事だった。澤田氏は3月1日、HIS株120万株を売却、約53億円を得て、損失を穴埋めした。
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大王製紙、「ギャンブル狂」御曹司の復讐!(前)この事件の責任を取り、澤田氏は19年5月、HTB社長を引責辞任した。その直前の19年4月、澤田氏はHTBの敷地をIR候補地に供給することを決め、カジノ誘致から撤退したのである。
コロナ禍で壊滅的打撃を被り、優良資産を次々と売却
筆者はNetIB-Newsに、HISについて寄稿した。
・『海外旅行が蒸発したエイチ・アイ・エス~ハウステンボス売却計画の衝撃』(21年7月13日~16日)
・『エイチ・アイ・エス(HIS)~創業者・澤田氏増資引き受けのために澤田HDを売却』(21年12月13日~15日)
・『「GoToトラベル」不正受給事件~仕掛け人は元HIS社長、平林朗氏』(22年1月4日~6日)新型コロナの感染拡大で、大打撃を受けたのが旅行業界である。日本人の海外旅行、外国人の日本旅行はほぼ消滅した。格安海外旅行を主力とするHISが被った打撃は壊滅的だった。資金繰りを立てるために優良資産の売却を急いだ。
今年5月には、電力小売事業を手がける子会社のHTBエナジー(株)(福岡市)を(株)光通信のグループ会社、(株)HBD(東京・豊島)に売却した。HTB内で、イルミネーションなどの電力を賄うために太陽光発電設備を設置したのが始まり。HTBエナジーは卸電力価格の高騰で採算が悪化しており、売却を決めた。売却収入は資金繰りに充てる。
澤田氏はHTBで試みたニュービジネスを全国展開してきた。ロボットが運営する「変なホテル」は成功例だ。HTBエナジーもその1つだった。
現金等残高はコロナ前の半分にとどまる
今年3月1日、HISの創業者、澤田秀雄会長兼社長は社長職を退き、矢田素史取締役が社長に就任した。澤田氏は代表権のある会長とグループ最高経営責任者(CEO)にとどまる。
同社をめぐっては、21年12月に子会社2社で「Go To トラベル」の不正受給をしていた問題が発覚した。HISは今回の人事について、「(Go To問題に関する)引責によるものではない」と説明しているという。そのとおりだろう。新型コロナ禍で旅行需要が低迷するなか、経営体制を強化して業績の立て直しを図ることは、創業者である自分の使命と肝に銘じているからだ。
HISの21年11月~22年4月期(22年度上期)の連結決算は、最終損益が269億円の赤字(前年同期は235億円の赤字)と、同期間としては過去最大の赤字となった。海外旅行の回復が遅れているうえ、電力子会社HTBエナジーの売却にともなう損失引当金などで特別損失が膨らんだ。
売上高は684億円だった。今期から「収益認識に関する会計基準」を適用し、航空券販売で燃油サーチャージなどを売上高から除外した。新基準を適用しない場合の売上高は57%増の1,022億円。だが、主力の海外旅行取扱高はコロナ禍前の3%程度の水準にとどまる。
財務も悪化した。現金等残高はコロナ前の19年10月期には1,925億円あったが、コロナ禍で800億円台に激減。不動産や子会社売却を進めたことで、4月末の現金等残高は964億円に持ち直した。それでもコロナ前の半分だ。
ポスト・コロナの海外・国内旅行の回復を見据えると、資金調達が重要な課題になっていることがわかる。まとまった大金を手にできる方策は何か。HTBの敷地をカジノ用地として205億円で売却することにかかっているのだ。
長崎県はIRを誘致できるか。誘致できなければ、カジノ用地として売却することを想定しているHISの再建計画が大きく狂うことになる。
(了)
【森村 和男】
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