2024年12月23日( 月 )

アベノミクスの歴史的功績と日本の未来~追悼セミナー(2)(中)

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 NetIB-Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は8月3日号の武者陵司代表の講演録「アベノミクスの歴史的功績と日本の未来」を紹介する。

 ストラテジーブレティン前号にて、産経新聞ワシントン駐在客員特派員・古森義久氏の「安倍晋三氏と日本、そして世界」を掲載している。

(2)日本に吹く地政学の順風と安倍政権

日本の歴史を規定してきた地政学(=世界のスーパーパワーとの関係性)

 長い目で経済と市場を考える時一番大事なことは「地政学、換言すれば世界を統治するスーパーパワーとの関係性である」というのが武者リサーチの一貫した主張である。この地政学環境が第二次安倍政権の登場とともに劇的に変わった。

 図表11, 12は日本の地政学レジームと株価推移であるが、近代、明治・大正の繁栄を支えたのは日英同盟であった。しかしアメリカ、イギリスを敵とした戦争に負けてすべてを失った(1945年)日本が再び大きく飛躍したのは1950年の朝鮮戦争と冷戦の勃発以降である。サンフランシスコ講和条約(1951年)以降日米同盟の下、1950年から1989年にかけての40年間に日経平均株価は400倍(年率16%)と大きく上昇した。この大繁栄の背後にあったのは、アメリカのアジアにおける自由主義の砦としての日本に対する継続的な経済的サポートであった。

図表11: 近代日本の興亡と地政学レジーム/図表12: 元号と株価の推移

 しかし1990年を前後して冷戦が終わり、日本のアジアにおける自由主義の砦という役割は失われた。1990年から2010年頃までの20数年間は、経済産業の面で著しく力をつけた日本をアメリカは脅威と見て、日本叩きを推し進めた。このアメリカの日本叩きそしてその手段として実現した超円高の結果、日本は失われた30年という長期停滞に入ったといえる。この平成の30年間、日本の株価は2割強のマイナス、アメリカその他の国では約10倍に株価が上昇するなかで日本の一人負けが顕著になった。この失われた30年の背後にあったのは日本とアメリカの関係性の変質である。つまり日本を守る日米安保体制から異常に強くなった日本を抑えるための安保体制、言ってみれば安保瓶の蓋の時代と言ってよい。しかし日米関係は今再び大きく変わっている。米中対立が決定的となり、中国を抑止するための同盟、日米同盟の第三段階に入っている。中国が米国にとっての最大の脅威であり、中国抑え込みのためには、日本が最も重要な盾となる。日本は世界最強の米国の最も大切な同盟国となったのである。それによる大きな追い風が、今後の日本経済を大きく押し上げていくと思われる。

米中対立時代の安倍政権の政策、インド・太平洋構想

 米中対立を予見し、米国に対して「自由で開かれたインド太平洋」構想の構築を働きかけたのが安倍元首相である。2012年第二次安倍政権誕生の当初は、尖閣問題で対立する中国は、安倍氏を戦後の世界秩序を否定する国家主義者と指弾して、米中連携での対日批判を試みた。しかし、オバマ政権、トランプ政権は中国の危険性の認識を強め、安倍氏の先見性を尊重するようになった。

 専制国家と自由主義国家の対立の時代を予見し、自由主義の盟主である米国との関係強化を打ち出したという点で、安倍氏は世界の指導者のなかで最も先見性があったといえる。

 中国を排除したグローバルサプライチェーン構築のために、超円高を求めてきた米国が、今超円安を容認している。これによりハイテク・半導体などでの日本の価格競争力が復活し、日本国内においては著しく割安になった賃金の引き上げが始まるものと思われる。

長期繁栄続く米国経済、技術・イノベーションと需要創造は健在

 今後の世界経済を展望するうえで、アメリカ、中国、ドイツに主導されるユーロ圏についてコメントしておきたい。安倍政権が希求した日米同盟の強化、自由主義国家の連携と中国・北朝鮮・(ロシア)など専制国家への圧力強化という戦略が妥当かどうかは、米・中・独の将来評価にかかっているからである。価値観から見て望ましい相手とみて連携を強めても、経済力がともなわなければその関係は持続性がない。

 安倍氏が関係強化に腐心した米国経済は、これから先はたして強化されていくのだろうか。図表13に示したものは過去120年間のアメリカの株価上昇トレンドである。このような100年間におよぶアメリカの長期成長が持続できるかどうかいうことの見極めが大事である。長期に経済を繁栄させるための第一の条件は、技術とイノベーションの発展、およびその結果もたらされる生産性上昇の持続性である。この点で今のアメリカは条件が満たされているといえる。第二の条件は、持続的な需要の拡大である。技術が発展し生産性が高まるということは供給力が増えていくことと同義であり、増えた供給力に対して需要が追い付かなければ需要不足によりデフレギャップが拡大し、大恐慌に陥ってしまう。

図表13: NYダウ工業株指数の推移・貨幣創造

 今米国はじめ先進国経済はまさに需要不足の渕にあると言ってよい。50年前のアメリカのリーディングカンパニーはGMやGEであるが、これら企業は儲かると工場を拡張し雇用を増加させ、次の需要拡大循環を引き起こしてきた。しかし今のリーディングカンパニーであるアップルやGoogleは、儲かっても設備投資もしないし雇用もさほど増やさない。膨大な企業利益が需要創造、経済の拡大循環に結び付かないのである。その結果、企業の余剰は金融市場に滞留し、著しい低金利を引き起こしている。

(つづく)

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(後)

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