2024年12月22日( 日 )

【スクープ】旦過市場再開発めぐり新たな「火種」─北九州

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 北九州の台所として知られる旦過市場(小倉北区魚町)。4月19日未明に発生した火事は一昼夜にわたって鎮火せず、市場内の42軒に延焼、名物でもあったレトロな町並みの一角を焼失した。火事の直後から同市場の復興を願う声は絶えることなく、クラウドファンディングなどでも寄付が集まり、北九州市民と旦過市場の結び付きの強さを印象づけている。旦過市場では火事の前から再整備計画が進んでおり、2027年度をメドに新しい商業ビルが建つ計画だが、その再開発地区をめぐるトラブルが起きている。旦過市場は誰のものなのか、市民が応援できる市場として再生できるのか、背景を探った。

深夜の火事で多くの店舗を焼失

焼失前の旦過市場
焼失前の旦過市場

 北九州市小倉北区。メインターミナル・JR小倉駅前の魚町銀天街商店街をぶらり歩いて10分ほど、あるいは小倉駅に直結する北九州モノレールで2つ目の「旦過」駅を降りてすぐ目の前。交通至便な旦過市場は小倉のまちの顔として、長く北九州市民に親しまれてきた。

今年4月の火事で焼失した旦過市場の店舗群
今年4月の火事で焼失した店舗群

    今年4月19日未明、旦過市場は突然、火に包まれた。北九州市消防局に一報が入ったのが19日午前2時38分、旦過市場そばの飲食店従業員の通報だった。その後、鎮火するまで約65時間にわたって、「歴史的遺産」とも評価された旦過市場の古い木造建物に次々と燃え広がっていった。燃えたのは市場一帯の約2割にあたる約1,600m2。飲食店など40を超える店舗が焼失した。旦過市場は細い通路を挟んで各店舗が連なる長屋構造になっており、観光の「売り」でもあった入り組んだ構造と狭い路地状の通路が消火活動を阻んだとみられている。

 火事の際には、深夜にも関わらず心配した市民が同市場周辺に多く集まり、勢いの衰えない火勢を前に涙を流す姿などがニュース番組で流れた。惨状を伝える記事のコメントには、全国の北九州出身者から嘆きの声が相次いだ。

再開発事業の目玉「A地区」の新商業施設

 火災から約2カ月後の6月23日、ようやく火災現場の処理作業が始まった。クラウドファンディングなどで集めた4,000万円などを充てて大量のがれきを撤去する計画だ。ほかにも、リリー・フランキーさん(小倉生まれ)や北九州市立美容学校を卒業した作家の町田その子さん(21年本屋大賞)が対談イベントを行うなど、復旧のための寄付を集める取り組みは今後も続く見込みだ。

 そんな旦過市場の復興に水を差しかねない、利権争いにも見えるトラブルが勃発している。騒動の舞台になるのは魚町4丁目、旦過市場のちょうど真ん中にあたる地域にあるコインパーキングを含む一帯。広さはおよそ1,950m2(約590坪)、再開発事業が進む旦過地区において北九州モノレール旦過駅に接続デッキで直結する、利便性の良い「A地区」と呼ばれる場所のおよそ半分を占める。A地区には旦過地区再開発の先陣を切って2027年ごろをメドに旦過市場の新しい顔となる4階建ての新しい商業施設が建てられる予定で、再開発事業の要ともいえる場所だ。

旦過都市開発が運営するコインパーキング
旦過都市開発が運営するコインパーキング

    コインパーキング一帯の所有者は、パーキング内の一角に本店住所を置く「旦過都市開発(株)」。駐車場の運営・管理を主業務とする企業だが、新しい商業施設では3階部分の駐車場を「換地」(※)として取得する予定で、北九州銀行から3億円の融資を受けたうえで新たに4階の駐車場を取得する計画もあるという。新施設内の駐車台数は100台規模で、年間約5,000万円の駐車場収入を見込む。
※:土地区画整理事業で地権者に新しく交付される土地。

旦過土地開発が所有する土地
旦過土地開発が所有する土地

 旦過都市開発は01年に、同市場関係者の4人の男性によって設立された。現在のコインパーキング付近の土地の所有者だった商事会社が破綻した際に、当時の旦過市場再開発事業で理事長を務めていた中村克己氏が「市場関係者でない者が取得すると、後々トラブルになる」と危惧し、知人の山口銀行関係者を間に入れて同行から土地を担保に融資を受けて取得したのが、同社の始まりとなる。

 初代社長には中村氏が就き、その後2代目の高柳実仁氏を経て、現在は旦過市場で食肉卸を営むKが代表に就いている。これまで同社の株主総会で確認されてきたのは、利益の追求だけを求めることはせず、設立の経緯に鑑みて「旦過市場の再整備・再開発を第一義的に考える」ということだった。事実、今年の総会議事録には「役員のための会社ではありません。報酬を受け取る会社でもありません。一般的な不動産会社ではないのです。まちづくりのために活動することを求められています」という発言も記されている。そうであれば、いよいよ再開発事業が本格化するこの時期はより慎重に事業を進めたいところ、なぜか同社内で、訴訟に発展しかねない「懸念事案」が発生している。

印鑑を押したのは誰か?~公的事業に新たな「火種」

 今年6月15日、同社の登記が変更された。変更事項は取締役の退任で、退いたのは、同社誕生の祖ともいえる初代社長中村克己氏の長男、中村真也氏(以下、中村氏)とその弟の中村英夫氏だった。中村家は代々、旦過市場内で鮮魚小売・卸を営んでおり、中村氏は父親から株式を譲り受けて15年前に旦過都市開発の取締役に就任していた。株主構成は、発行株数400株のうち代表取締役のKが140株、中村氏(取締役)が140株、Kの息子のS(取締役)が20株、Kに近いF(取締役)が6株、中村氏の弟の中村英夫氏(取締役)が20株の計326株となる。

旦過都市開発 株主構成
株主構成

 今年6月、同社の株主総会で、5つ目の議題として取締役を5から3に減らす案が提起された。提案理由は「現状の収支状況では資金ショートが目前」だとして、経営陣のスリム化を図りたいというもの。代表のKからの提案だったが、中村氏は、現取締役の構成がK派の「3」に対し、自分と弟が「2」であることから「自分たちを外すつもりなんだなと、すぐに気づいた」という。不信感を抱いたのには、Kが以前、広島のコインパーキング事業への投資で同社に損害を与えたことで中村氏と対立していたことも背景にあった。

 中村氏は総会で、「ちょっと待ってください。こんなの出来レースじゃないですか」と取締役改選の投票をやめるように求めたが、同席した司法書士から「たとえ投票しなくても、改選は成立する」と言われたため、結局、弟の英夫氏を残して退席している。中村氏は同社の財務内容について、「資金ショートの可能性といっても、まずは役員報酬を減らすことから始めるべきだ」と考えていたという。21年度は家賃収入やコインパーキング事業で4,414万2,556円を売り上げ、そのうち役員報酬としてKの684万円を筆頭に、中村氏504万円、F348万円、S129.6万円、中村英夫氏129.6万円の総額1,795万2,000円が支払われていた。

 「取締役のFは、名前を貸すだけで旦過土地開発から年間約350万円の役員報酬を得ています。Fは井筒屋の元役員で、いまは“タウンマネジャー”を自称していますが、何をやっているのか実態はわかりません。Kは、『新施設に第一交通と西部ガスを連れてきたのはFだ』などと吹聴していますが、本当でしょうか」(中村氏)。

 第一交通産業によると、旦過市場に新しく建つ商業施設の2階部分で西部ガスとのJV(共同企業体)による飲食店運営を行うのは事実だが、再開発事業の窓口は北九州市建設局と「旦過総合管理運営(株)」(昨年2月設立)だけであり、個人の「口利き」などによって再開発事業に参加した事実はないという。

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 旦過土地開発の「内紛」は今後、どうなるのか。中村氏は株主総会の議事録に押されていた印鑑が自分のものではなく、第三者が勝手に押印したもので決議が無効であると主張して、裁判で争うことも辞さない構えだ。

 取材に対し、同社代表のKは「中村氏は一度も事務所に顔を出さないなど、取締役の責務を果たしていない」として、同氏解任については問題がないという認識を示したうえで、中村氏の印鑑を誰が押印したかについては「司法書士に任せてあるのでわからない」としている。Kの右腕的存在のはずのFは、「自分は何もわからない。責任はない」と話し、「(旦過都市開発の)取締役なんか、いつでも辞めてやるよ」と言い切っている。

 仮にKの言う通り中村氏が「取締役の責務をはたしていない」とすれば、「何もわからない。責任はない」と強弁するFも同様に取締役の責務を十分にはたしているとは言い難いはずだが、中村氏を取締役から外してK自身と息子、さらに右腕であるFの3人体制で旦過都市開発の運営を独占した事情について、Kは「話す必要がない」としている。

旦過市場の復興を願うメッセージが続々と
旦過市場の復興を願うメッセージが続々と

    Kは、旦過地区再開発事業において北九州市建設局と並ぶ窓口となる旦過総合管理運営の取締役副社長も務めている。北九州の顔ともいえる旦過市場の再開発事業は極めて公的色彩の強い事業だ。前述したように同市場の復興と発展を願う市民は多く、そうであるからこそ、再開発事業に絡む利権を独占しようとする動きがあるとすれば、市場関係者に対する市民の反発を生みかねない。

 復興支援の動きに水を差す事態でもあり、訴訟が提起されれば北九州市当局はもちろん、新施設に入居予定の大手企業も無関心ではいられないはずだ。

【データ・マックス編集部】

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