暗殺事件で霞んだ参院選の焦点、「上下」対立への転換こそ野党再生の道(中)
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ジャーナリスト 鮫島 浩 氏
今夏の参院選も2人に1人が投票権を放棄した。投票率は52.05%。前回を3.25ポイント上回ったものの、民主党が政権交代を実現した2009年衆院選(69.28%)には遠くおよばない。この程度の投票率では政治の地殻変動は起きず、自民党が単独で改選過半数を獲得する歴史的大勝に終わった。
「誰ひとり見捨てない政治」は夢物語か(つづき)
私は今回の参院選で「誰ひとり見捨てない」「生きているだけで価値がある」という政治信念を掲げたれいわ新選組を支持すると表明した。ジャーナリストとして自らの立ち位置を鮮明にし、なぜ支持するのかという理由を主体的に明示することで有権者に判断材料を提供する新しい政治報道に挑戦したのである。客観中立を装いながら誰からも非難されないように無難な記事を量産する、マスコミの傍観的選挙報道に異議を唱える狙いがあった。
れいわが掲げる政策で共鳴したのは「教育の無償化」や「奨学金チャラ」だ。もしこれらが実現していたら山上容疑者は大学へ進学し、人生は大きく変わり、安倍氏殺害へたどり着くことはなかっただろう。やはり格差社会や貧困問題を放置してきた政治の無為無策がもたらした事件に思えてくる。
今回の参院選でも多くの政党が社会保障や教育政策の充実を訴えた。しかしそのほとんどは財源論の壁にぶちあたる。自民党や公明党の与党だけではなく、立憲民主党や共産党などの野党も、財務省が唱える財政健全化や収支均衡という「緊縮財政」の土俵に乗り、国債発行を極力抑制し、税金で財源を確保したうえで限られた予算にどう優先順位をつけるのかという議論を重ねている。その土壌の上では教育無償化も奨学金チャラも「夢物語」として却下されてしまう。
これに対し、世界の経済学者の間では近年、「積極財政」という考え方が急速に広がっている。金本位制が終焉して変動為替相場制に移って半世紀、「国債発行=国の借金」という旧来の常識を疑い、独自通貨をもつ国はハイパーインフレにさえ注意すれば財政の収支均衡に縛られずに大胆に通貨を発行することができるというものだ。
独自通貨をもたないギリシャが不況下でEUに迫られて、社会保障を切り詰める緊縮財政を進めて経済崩壊したのに対し、独自通貨をもつアイスランドが不況下でも社会保障を充実させる積極財政を断行して急速な経済発展を遂げたことが積極財政派を勢いづかせた。さらにはコロナ禍で米国が大胆な財政出動を進めて景気が急回復したことも、緊縮財政を否定する実例として注目を集めている。
積極財政を日本で先取りし、参院選で前面に掲げたのがれいわ新選組だった。政策立案の中心人物が比例区で出馬した長谷川ういこ氏である。彼女は2011年の福島原発事故から脱原発運動に身を投じて緑の党を設立したが、原発に頼らず再生エネルギーを大胆に増やす社会を実現するには経済政策に精通する必要があると考え、立命館大学の松尾匡教授らと研究を開始。ギリシャやアイスランド、米国などの実例を比較研究し、積極財政を唱える世界の経済学者の本を翻訳して日本に伝えてきた。今回の参院選では「れいわの積極財政こそ世界の主流」と訴えた。
安倍氏が殺害された7月8日夕、長谷川氏は東京・品川駅前で演説し、不況下の緊縮政策が世情不安を招き、テロを誘発して戦争へ発展した昭和史を振り返った。
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【鮫島浩・特別寄稿/2022政界徹底解読】ポイントは「安倍・麻生」盟友関係の軋み 二大キングメーカーの狭間で岸田政権長期化も(前)「1930年代の昭和恐慌時の大蔵大臣・井上準之助は、ひどいデフレ不況のなかで緊縮策を断行しました。農村は疲弊して貧困状態に陥り、多くの若い少女が身売りする事態になりました。歴史から私たちが学ぶべきこと、それは不況のときに緊縮策を行ってはいけない、人々を苦しめてはいけないということなんです。人々が貧困に苦しむとテロにつながり、戦争への道となる。今こそ、不況のときだからこそ、積極財政で私たちの生活を支え、そして消費税廃止で私たちの生活を何とか立て直し、そして平和に向かって民主的に進んでいく必要がある」
(つづく)
<プロフィール>
鮫島 浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら幅広い政治家を担当。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月31日、49歳で新聞社を退社し独立。
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