AIが普及しても、人による情報収集はなくならない(後)
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日本ビジネスインテリジェンス協会
理事長 中川 十郎 氏商社マンとして20年以上、8カ国に海外駐在し、60カ国以上で海外事業や海外ビジネス開拓に携わった経験から、新ビジネスの開拓では情報を収集して活用することが欠かせないと語る日本ビジネスインテリジェンス協会(BIS)理事長・中川十郎氏に、BIS活動を通じて今見えていることを聞いた。
健康の秘訣は病気になる前に治すこと
中川氏は「漢方など伝統医療の専門家は、体の調子を崩して病気になる前に症状が現れる『未病』の段階で治療するのが大切だといいます。病気になってから治療するより、病気を予防する段階で手を打った方が、効果が高いからでしょう」と語る。
体全体の調子が崩れた結果、胃や腸など弱い部分に症状が出てくるため、体の調子が悪くなったらすぐに調べて、病気になる前に対策を取ることが大切だ。しかし、現代人は自分の体調が悪いことに気づかず、気づいたら病気になっていたという人も多い。病気になる前に手を打つにはどうしたらいいのだろうか。
この疑問に対して中川氏は、BIS顧問であった故・小野田寛郎元陸軍少尉の話を挙げる。小野田氏は、第2次世界大戦中にフィリピン・ルバング島に派遣されてジャングルで約30年間生き延び、帰国後、91歳まで生きて天寿をまっとうした。「小野田氏はフィリピンで過ごしていたとき、朝に目が覚めたら疲れていないかを確認し、体の調子が少しでもおかしいと感じたらその日1日は無理をせず、動き回らなかったと聞いています。ジャングルでは医師がおらず、病気になっても薬がないため、健康には人一倍気を付けていたのでしょう。30年間もジャングルで生き延びられたのは、体調管理の賜物です」(中川氏)。
現代人は夜更かしをしがちであるが、小野田氏は日が昇ると起きて、日が沈むと寝るという規則正しい生活を送っていた。ジャングルで夜に土の上に寝ていると、敵がきたときにすぐに起き上がれないため、毎日岩にもたれて寝ていたという。便通や尿の出が悪かったり、微熱があったり、お腹を壊したりしたときは体調が悪くなっているため、敵に遭遇しても太刀打ちできないと考えて、遠出をせずに静かに過ごした。帰国後も毎日体調をチェックし、暴食をせず、穀類や野菜を中心とした食事を取っていたそうだ。
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AIが普及しても、人による情報収集は永久に残る
中川氏はAIやビッグデータが活用される時代であっても、本当の意味での情報交換をしたいなら、直接会ってリアルに話すことが必要だと強調する。人に会ってお互いに話すと、さまざまな話にめぐり合う。
「オンライン会議システムのZoomを使って人と話すこともできますが、リアルに人と会って話す場合の情報交換に比べて、情報量が格段に違います。リアルで会って顔を見ながら話す場合はZoomに比べて、表情や話し方、声色が伝わりやすいため、印象が強くなり、話の説得力が出ます。BIS会合でも会場での開催とともにZoom配信を行っていますが、人々が互いに隔たっていると感じます」(中川氏)。リアルに会うと感情の交換ができるが、オンラインでは機械的な映像になるため、情緒が伝わりにくい。
また、しらふで話すよりも、お酒が入ると本来の重要な情報が入りやすい。公式の場では話されなかったことも、お酒を飲んだときに情報が交換されることもあるという。
ビッグデータやDX(デジタルトランスフォーメーション)が活用される時代になり、社会で扱われる情報量は増えている。この状況に対して、中川氏は「何かを知るだけならスマホで調べればすぐわかりますが、断片的な知識も多く、それだけに頼るのは危険だと考えています」と語る。
単なる情報(インフォメーション)を分析して、活用できる情報(インテリジェンス)まで高めるには時間がかかるが、人に会ったり、本を読んだり、興味のある場所に足を運んだり、ノートに書いたりと、体を動かして五感を使うことも必要だ。ただ知っているだけで内容を深めなければ、人格形成や教養に役立てることはできない。「その場で知った情報も蓄積しなければ、流れてしまって身に付かず、本当に役立つものにはなりません。これは、情報化時代ならではの問題点です。海外の情報研究家のなかには、人が五感を使って調べる『昔ながらの情報収集のスタイル』はAIが普及しても永久に残るのではないかと発言している人もいます」(中川氏)。
BISの勉強会では今後、経済情報や健康情報とともに、環境問題に関する情報、文化・芸術情報にも注力していきたいという。
(了)
【石井 ゆかり】
<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・じゅうろう)
鹿児島ラサール高等学校卒、東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。海外8カ国に20年駐在。業務本部米州部長補佐、開発企画担当部長、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部・大学院教授などを経て、現在、名古屋市立大学特任教授、大連外国語大学客員教授、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、国際アジア共同体学会学術顧問、国際伝統・新興医療融合協会理事長、中国科学技術競争情報学会競争情報分会国際顧問などを務める。
共著に『見えない価値を生む知識情報戦略』(税務経理協会)など、共訳書にウィリアム・ラップ『成功企業のIT戦略』(日経BP)など、英文共著に“The Intelligent Corporation” Taylor Graham.など多数。関連記事
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