2024年12月22日( 日 )

【鮫島タイムス別館(4)】安倍氏亡き後の自民党内の権力移行

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派内バランスに腐心する清和会

 安倍晋三元首相が凶弾に倒れ、リーダーを失った自民党最大派閥の清和会。そこへ旧統一教会問題が直撃し、大揺れのなかで後継争いが激化している。安倍氏の後継者となるのは誰か。現状を分析してみよう。

 はじめに確認しておきたいのは、清和会には安倍系(岸信介―安倍晋太郎の系譜)と福田系(福田赳夫―福田康夫の系譜)との抗争の歴史があることだ。清和会による自民党支配が始まったのは小泉純一郎政権が発足した2001年。当時、福田康夫官房長官と安倍晋三官房副長官はことごとく対立し、犬猿の仲であることが知れ渡った。

 12年に第二次安倍政権が誕生すると、安倍首相は下村博文、萩生田光一、西村康稔、世耕弘成、稲田朋美ら安倍系を次々に要職に起用し、福田系には不満が募った。

 昨秋に発足した岸田政権は安倍氏の求心力低下を狙って、福田系の松野博一氏を官房長官に、福田達夫氏(康夫氏の長男)を自民党総務会長に、高木毅氏を国会対策委員長に起用した。安倍系と福田系のバランスをとりながら清和会のドンとして君臨してきた森喜朗元首相は、岸田政権でキングメーカーとなった麻生太郎副総裁と文教族つながりで親密だ。「安倍系外し」の人事には森―麻生ラインの意向が働いたとみていいだろう。

清和会後継者候補の浮き沈み

 安倍氏という支柱を突然失い、安倍系は群雄割拠の戦国時代に突入した。真っ先に脱落したのは、文科相時代に旧統一教会の名称変更を認めたことで猛烈な批判を浴びた下村氏だ。昨秋の総裁選でも出馬に意欲を見せながら安倍氏の支援を得られず断念した経緯があり、求心力低下は否めない。

 安倍氏の寵愛を受けて防衛相や政調会長などの要職を歴任した稲田氏もジェンダー問題でリベラル的姿勢を強めたことから最近は安倍氏に煙たがられていた。安倍氏は稲田氏に代わって無派閥の高市早苗氏を重用し、昨秋の総裁選でも高市氏を擁立して全面支援したため、稲田氏の存在感は急落。後継争いから大きく出遅れている。

 安倍政権で官房副長官や経産相を歴任し、参院幹事長として影響力を拡大している世耕弘成氏は有力候補の1人だ。地元・和歌山の大物である二階俊博元幹事長の政界引退を視野に衆院に鞍替えし、総理・総裁を目指す意欲を隠していないが、現時点で参院議員であることは後継争いからやや出遅れているといえるだろう。

 安倍系で一歩リードしたのは、今回の内閣改造・自民党役員人事で経産相から自民党政調会長へ転じた萩生田光一氏だ。安倍氏が最も気を許した側近として知られる一方、政治的な立ち回りは巧妙で森氏や菅義偉前首相からも信頼を得ている。今回の人事でも要職に踏みとどまったことから、岸田首相や麻生氏との関係も良好とみられる。ただ、下村氏に劣らず旧統一教会との関係が指摘されているのはアキレス腱だ。

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 萩生田氏に続く有力候補は清和会事務総長から経産相へ抜擢された西村康稔氏。安倍氏の家族葬準備で安倍邸に足しげく通って存在感をアピールした一方で、この行動は清和会内では「スタンドプレーだ」と不満も広がった。人望に欠けるのは弱点だが、森氏をはじめ長老受けは良く、萩生田氏が旧統一教会問題で転んだ場合は経産相の立場を足がかりに後継レースで優位に立つ可能性もある。

 福田系では福田達夫氏が重要閣僚への抜擢が取り沙汰されつつ、旧統一教会と自民党との関係について「正直、何が問題かわからない」と発言して炎上したのが響いて入閣が見送られた。一方、松野氏は内閣の要である官房長官に留任し、岸田政権下で清和会リーダーを狙う立場を固めそうだ。

自民党内の権力の中心が移行

 岸田政権は衆参選挙で圧勝し、長期政権の様相を示している。清和会次期リーダーをめぐる混戦から抜け出すには、岸田政権に取り入り有力ポストを手に入れることが不可欠だ。その意味で現時点では萩生田氏、西村氏、松野氏が優位に立ったのは間違いない。

 だが、裏を返せば、清和会次期リーダーの指名権を岸田政権に握られたともいえる。岸田首相と麻生副総裁は清和会時代に分裂して弱体化した宏池会の流れを汲む岸田派、麻生派、谷垣グループを「大宏池会」として再結集させ、清和会を上回る最大派閥に躍り出る野望を抱いている。清和会有力者たちは派閥内の主導権争いに明け暮れるなかで岸田政権に隷属し「大宏池会」再興を容認することになろう。清和会から宏池会へ。自民党内の権力の中心は着実に移りつつある。

【ジャーナリスト/鮫島 浩】


<プロフィール>
鮫島 浩
(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト/鮫島 浩ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら幅広い政治家を担当。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月31日、49歳で新聞社を退社し独立。
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