2024年12月04日( 水 )

環境負荷の少ない製剤で海外の感染症などの課題解決へ

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(株)九州メディカル

 調剤薬局を本業とし、バイオ事業で海外進出を進める(株)九州メディカル。パラグアイなど南米では蚊を媒介とするデング熱の感染対策が重要な課題の1つであり、同社のボウフラ(蚊の幼虫)殺虫剤「MOSNON TB」は、環境負荷が少ないながらも、薬剤への耐性を強めているボウフラにも効果を有することから、同社はJICAの支援を受け、現地での製造・販売事業化を進めている。同社の担当者にパラグアイ事業やJICAの支援について話を聞いた。

JICAへの相談のなかで、海外での課題を発見

九州メディカル ボウフラ殺虫剤「MOSNON TB」
「MOSNON TB」8mm錠剤

    (株)九州メディカルは1995年からバイオ事業を開始。同事業は当初から海外市場を意識しており、現在では売上に占める海外比率が半分以上を占める。水産・養殖関連製品を得意とし、微生物により養殖池をきれいにする製品、エビなど海産物用のプロバイオティクス製品などを販売している。インドネシアで2009年から工場を借りて製造を開始。そこを拠点として、東南アジア、バングラデシュなどで販売している。最近はイギリスからも引き合いがあったようだ。

 インドネシア進出当初は、初の海外進出ということもあり苦労の連続であった。同社バイオ本部研究開発課の下川智子課長によると、日本との文化・商習慣、考え方の相違から意思疎通は大変であり、日本語や日本の文化を理解する現地パートナーに頼りがちになるが、自社の事業やサービスを専門的なレベルで理解できる人材はなかなか見つからない。政府の規制変更も頻繁で、その情報を入手するのにも時間を要したという。

 同社が活用を試みたのが、JICA(日本国際協力機構)の支援だ。同社のボウフラ殺虫剤「MOSNON TB」は「バチルス・チューリンゲンシス」という微生物がつくるタンパク質を主成分とする微生物製剤。福岡県との共同研究による成果であり、インドネシア人から製品化を勧められた。JICAの「中小企業・SDGsビジネス支援事業」(以下、「支援事業」)の申請は、東南アジアでは案件数が多いこともあり、採択には至らなかった。ただ、準備中にコンサルタントから、南米のデング熱、アフリカのマラリアの感染という課題を聞き、その後JICAの別事業で調査のためパラグアイなど南米を訪問。そこで、デング熱などの感染症が流行していること、現地で使用されている薬剤に耐性をもつボウフラが出現していることなどの課題を実感した。同社の「MOSNON TB」は化学殺虫剤よりも人体などのほか水生生物など環境への影響が小さいという特長を有しているが、パラグアイの耐性を強めるボウフラにも効果があることがわかり、JICA「支援事業」の「案件化調査」に申請、19年に採択され、20年から調査を実施した(支援スキーム名は当時のもの)。

パラグアイにおいて、使われていない井戸に「MOSNON TB」を投与
パラグアイにおいて、
使われていない井戸に「MOSNON TB」を投与

南米市場の有望性 外資優遇策を活用

 パラグアイを選んだ理由は主に2つ。1つ目は、現地生産として承認される成分などの現地調達比率が比較的低いこと。パラグアイでは輸入品を6割まで使用しても現地生産と認められる。製品の性質上、輸入品を多く含むという問題をクリアできる。2つ目は外資への優遇政策で、優遇措置が多く、規制が少ないこと。

 パラグアイは南米南部共同市場(メルコスール。正加盟国はブラジルなど5カ国。ベネズエラ以外の南米諸国が準加盟国)という巨大な貿易圏・マーケットに加盟しており、域内で生産した同製剤を関税なしに輸出できる。また、メルコスール圏外からの輸入においても関税が撤廃された品目が多い。なおパラグアイの事業環境は比較的整っているが、人口700万人と市場は小さいため、背後にあるブラジルなど南米全体を見る必要がある(下川氏)。

 海外事業では、現地の人の協力を得られるよう信頼関係を築くことがポイントとなる。パラグアイの日系人は勤勉な働きぶりから、現地で信頼されており、日本人に対しても好意的という。日系人が多く、なかには日本の文化を忘れないよう、日本語学習・教育を続けている人もいて、意思疎通などの面でハードルは意外に低いと感じており、同国の穏やかな国民性も信頼して付き合いやすい好材料の1つという(下川氏)。

 とはいえ、温暖な地域の人々によく見られる気質として、のんびりしていて連絡が取りづらい、忘れがちという点に注意が必要という。1週間、あるいは1カ月以上、連絡を待たされたこともある。ある共同作業の実施を現地の機関と調整していたが、予定が3~4カ月遅れたうえ、現地到着後にようやく予定を教えてもらえたということもあった。また、Eメールへの返信が少なく、関心がないのかと不安を抱きながら訪問すると、相手から待っていたと歓迎を受けたこともあり、実際に会わないと物事が進まないと感じたこともあるという。パラグアイへは2~3回の乗り換えで実質3日の行程で、「心理面でのハードル」は高いが、思い切って行く必要性を感じたという。なお、連絡はメッセージアプリの「WhatsApp」のほうが、返信率が高く、早いようだ。

九州メディカルバイオ本部が入居する福岡バイオインキュベーションセンター(久留米市)
九州メディカルバイオ本部が入居する
福岡バイオインキュベーションセンター
(久留米市)

    海外事業であれ、企業として利益を出す必要があることは同じ。海外の開発課題を把握し、その課題解決に向けたビジネスを手厚くサポートするJICAの「支援事業」に関して、下川氏は経費への負担が手厚いうえ、自社単独の進出であれば現地の機関とのやり取りはこうもスムーズには進まなかっただろうと感謝している。同社は事業化の初期段階では現地企業に製剤生産に必要な成分を輸入してもらい、現地メーカーへの生産委託を予定している。南米全体に展開する段階では、現地メーカーと共同出資で工場を建設することも視野に入れている。

【茅野 雅弘】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:波多野 稔丈
所在地:北九州市小倉北区大手町13-4
バイオ本部:福岡県久留米市百年公園1-1
設 立:1987年11月
資本金:5,000万円

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