『データが示す福岡市の不都合な真実』を読んで(2)尽くすという意識の欠落が家族形成をなさない
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木下敏之福岡大学経済学部教授の新刊『データが示す福岡市の不都合な真実』を読み、共鳴することが多くあった。筆者なりの所感・指摘を5回にわたって連載する。各データは主に同著から引用している。まずは購読されて、各データ・指数を知ることをお薦めする。
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個々分断の生活に籠る
木下教授は、「出生率の低下は貧困にある」という経済的要因を挙げている。この指摘に異論はない。「福岡市の平均所得が少ないから出生率が低い」という結論づけには賛成する。しかし、それ以前に、核心的問題=尽くすという意識の欠落、とする精神的な問題の解決を取り上げる必要がある。経済的な問題は次回に触れるとして、今回は思想の領域で考えることにしたい。
沖縄県の例で展開してみよう。九州の市町村における出生率ベスト20のトップ10に、沖縄県の9の自治体が名を連ねているが、同県の所得ランキングは九州地方で最低である。このため、所得が増加すれば出生率が高まるとは必ずしもいえない。やはり地方では、地域の共同体意識が根強いという特性があることが出生率を高める大きな要因となっているのではないか。
余談になる。以前、沖縄県の子どもの多さを述べた。今春、沖縄の経済を視察した際に、レストランで昼食をとった。3人の子ども連れの家族と遭遇した。そこで、鹿児島県と沖縄県の将来の人口推移を予想してみた。10年後、鹿児島県は人口140万人すれすれに減る。そのころに沖縄県に追い抜かれるであろうという見立てをした。江戸時代に鹿児島県(薩摩)は沖縄県を支配(植民地)して富を増やしたことは周知の事実だ。いずれは経済力でも追い抜かれるのではないか。
やはり人口増、子づくり増の決定的な要因はモノの考え方に帰結する。都市生活は個々分断の生活に追いやられる。自分勝手の生活に籠りがちである。他人に、身内に対する意識が欠落する。子どもの育成は迷惑だという偏った意識を抱いてしまう。中国でも出生率の低下が危惧され出した。筆者は2000年頃から予感していた。要するに、若いカップルは子どもを産んで自分たちの生活水準を落としたくないという自分勝手な考えをもっている(筆者の世代の方が妄想を抱いているのかもしれないが…)。
周辺の現実から目を逸らすな
読者の方も、自分の身内や友人の家族を見渡してほしい。結婚しない若者たちが数多くいるはずである。「Aさんのところは子どもが3人いたが、誰も結婚していない」とか、「3人の子どものうち1人がようやく結婚したが、子どもができない。親たちはもう孫の顔を見られずに成仏してしまう」と観念している光景が数多くあるであろう。40歳前後になって結婚するケースもぽつぽつとあるが…。
筆者の姪は美人の部類に入る。かなりの高学歴である。最近、とうとう50歳手前となった。勤務先は転勤がなく、安定している。だから縁がなかったというわけでもないだろう。先日、腹を割って議論した。「もう50歳に迫ったな。単身で人生を貫くのか?」と投げかけた。「叔父さん!男性と縁はあったのです。だけど、2人になると非常に緊張して息苦しくなるのです」と漏らした。彼女の妹はアメリカ人と結婚して、2人の子どもを産んで幸せな家庭を営んでいる。姉妹でも価値観や性格において雲泥の差があることに気づく。
町内会で家系存続は3割
これもまた以前、触れたことがある。隣近所の知る限りの情報を基に占ってみよう。まずは家族の構成人が1人になったケースも目立つ。家族・家系の存続という観点から述べてみる。
10所帯分。①左隣の老夫婦(70代)は子どもに恵まれず、優雅な生活を楽しむ。家系存続は消滅。②右隣は主人が亡くなる。未亡人と長男の2人暮らし。この長男に縁があるかと言えば、可能性は低い。消滅する可能性が高い。③その右隣。1人息子は東京大学卒。東京で家族を持ち、家系の存続は可能。④角地は3人の娘がいる。父親は福岡市局長経験者。娘は3人とも40歳前後。結婚の可能性は低いようだ。存続は不確定。⑤裏側は、主人が亡くなり、未亡人と娘の2人暮らし。息子は50歳を超えているが、独身。同居する娘さんは60歳に近い。家系存続は不可能。
⑥裏側のもう1所帯は、夫婦暮らしで子どもの存在を確認していない。⑦向かい側に移る。ここには2人の娘がいた。東京に就職して2人とも結婚。盆・正月に孫たちがやってくる。昔の幸せのパターンである。家系存続は大いに可能。⑧この家族は1人息子。依然として1人暮らし。母親もあきらめ、放心状態。息子の年齢は40歳を超えた。⑨⑧の隣は、娘が2人いる。自宅を離れて姉妹でアパート暮らし。結婚する気配はない。⑩筆者宅は辛うじて存続の可能性あり。
近隣から情報収集した結果、家系存続の可能性があるのは3割程度。近い将来、7割が死に絶えるであろう。この冷酷な実情を把握しないとね。
(つづく)
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