2024年12月23日( 月 )

繫栄を極める建設業界、水面下の激変裏話(4)「贅沢景気」の後には「地獄」がやってくる

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人員確保、人件費高騰にどう対応するか

 木下敏之福岡大学経済学部教授の著書『データが示す福岡市の不都合な真実』に関する連載において、とび・土工のトップ企業A社を紹介した。A社は今期完工高100億円を突破するであろう。「TSMC」(台湾積体電路製造)が、熊本県菊陽町で半導体工場の建設に着手、経済産業省は約5,000億円という巨額の補助金を交付する。工場機械への設備投資を差し引いても建築代金として約6,000億円が見込まれる。今期完工高100億円突破が見込まれる福岡市のとび・土工のトップ企業A社はTSMCについて「別次元の現場」としているが、同社の請負金額も100億円を超すのではないか。

 “別次元の工事受注”ができれば嬉しいところではあるが、人員を確保できないかもしれないというリスクも待ち構えている。この現場には常時1,000人以上の人員が必要とされる。スタート時、関西方面の仕事が一段落して余裕があるため九州に人員がまわされており、A社が必要とする頭数は当面、確保できているが、近い将来、九州内において自前で人のやり繰りをしなければならなくなる。幹部は深刻な顔つきで「頭が痛い」と語る。

 人件費の上昇も影響する。工業高校、理系大学の新卒者は、発注先の製造業に就職する傾向にある。得意先がライバルになるのだから痛し痒し。TSMC側は初任給約28万円を提示しており、日本企業側も相当のベースアップが必要となる。年収300~400万円台だったのを、400~500万円に引き上げる準備に迫られるようになってきた。

実習生に見放される日本

建設現場 イメージ    A社の同業種において、とりわけ鉄筋工、型枠工などの職人を確保するのは至難の業だと指摘されている。職人や建設業界を志望する人の「ホームグラウンド」と目されていた柳川・大川地区では近年、若者の姿が“消えてしまった”と指摘されている。

 現場環境が厳しいために敬遠されるのであろうか。A社と同業のある経営者に「現場のロボット化は今後、何年で実現できるか」という質問を投げかけてみたところ、「10年以内の実現はあり得ない」と断言された。この経営者は「現場をロボット化する市場が無限にあれば、開発・投資額が膨張するであろう。そうなれば将来が楽しみになるが、残念ながらそういう世界ではなく、投資額にも限度がある。10年以内の現場のロボット化は夢物語だ」と喝破する。人繰りの成否が企業の寿命を決定するようになってしまった。

 世の流れに疎い下請の経営者のなかには「それなら外国人技能実習生を活用すれば良い」と語る者もいるが、実習生が日本に魅力を感じなくなりつつあるのを知らないようだ。彼らの動機は「いくら稼げるか」である。「働き方改革」の徹底により、工事現場においても残業時間削減が本格化し始め、稼げなくなった。情報が広まるのは早く、「日本ではあまり稼げない」と彼らは認識している。

 さらに追い打ちをかけているのが円安。すでに1ドル140円を超えたが、同150円となれば、実習生は日本で働くことに魅力を感じなくなる。この「近未来の悪夢」は現実になるだろう。ほかに稼げる国は韓国、台湾、中近東など、たくさんあることを知ってほしい。日本経済が弱体化している現実を知るべきだ。

 

筆者と親しい大企業O社の幹部は、「下請にも職人がおらず、厳しい工事を求めると、『とてもできません』という言い訳が返ってくる。厳しく追及できないため、手抜き工事にも目をつぶるしかない。自社の現場でもチェックする余裕も口出しする余裕もない。いずれ耐震偽装問題のように社会から糾弾を受けるのでは、と不安でたまらない」と漏らす。

 若手経営者にとって、「苦しみを味わう」「落とし穴に落ちる」といった試練を一度経験することは大いに勉強になるであろう。

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