九州を代表するメディアも 再生への打開策を見い出せず(後)
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(株)西日本新聞社
新聞発行は、すでに採算の取れない時代遅れのビジネスモデルになってしまった。ブロック紙の雄と言われた西日本新聞も例外ではない。業績の凋落に歯止めが掛からない状況だが、再生の道はあるのだろうか。最新決算を基に同社の現状を検証する。
中期経営計画は縮小均衡計画
新聞の低迷が続くなかで、同社は西日本新聞グループの改革として「2023中期経営計画(21~23年度)」に取り組んでいる。実行方針は3つであり、第一の方針が「メディア事業のモデルチェンジ」だ。
21年4月に本格的な課金媒体となるニュースサイト「西日本新聞me」のアプリ版をリリースした。ダウンロード総数は1年間で40万件を突破したそうだが、業績に寄与するところまでには至っていない。22年3月期でデジタルメディア事業の売上高は、メディア関連事業の売上高の3.9%に過ぎない。
第2の方針は「メディア外事業の拡充」、賃貸マンション取得などによる不動産事業の強化だ。同社の主な賃貸用建物は「エルガーラ」(福岡市中央区、簿価13億3,300万円)、「西日本新聞博多駅前ビル」(福岡市博多区、簿価23億7,800万円)、「香椎フェスティバルガーデン」(福岡市東区、簿価48億7,700万円)などだ。不動産事業は順調に売上高、利益とも伸びており、メディア関連事業の赤字をカバーしている。ただし、これは現在の中期経営計画策定前からの傾向であり、拡充がうまくいっているのかどうかはよくわからない。
第3の方針は「経営基盤の強化」で、社員の役割と成果を重視し、能力を引き出して経営目標の達成につながる新人事制度を21年5月に導入したという。新人事制度の内容がわからないし、定性的な目標のため成果のほどは不明だ。
この3つの方針とは別の動きとして、新聞を永続的に発行できる体制を確立するとして、21年4月に(株)西日本プロダクツを設立。紙の新聞製作にかかわるグループ5社と新聞社の一部部署を統合し、22年4月から稼働している。合併効果でコスト削減するだけでなく、輪転機の受注印刷の拡大や、グループの物流網を生かしたラストワンマイルの物販事業などで利益を追求し、連結経営の基盤強化を進める考えだ。
こうした同社の中期経営計画と組織改編は、既存リソースの有効活用、ローリスクな不動産投資、時代に沿ったデジタルシフトという、至極真っ当な経営上の対応策だ。一方で、新聞業界の凋落スピードと社会変化のスピード感を考慮すれば、業績の回復などとても見込めない、縮小均衡策に過ぎない。そこからは、ジリ貧傾向から抜け出せず、大家業で食いつないでいく未来しか見えてこない。
ネガティブ・スパイラル
近年の同社はリストラなどの後ろ向きの事業戦略のさなか、トラブルや不祥事も頻発している。
トラブルでは21年7月に長崎の販売店店主が提訴した、いわゆる「押し紙訴訟」が始まり、現在も係争中だ。不祥事では22年4月に、西日本新聞社や出向先の九州大学大学院から経費を不正受給していた編集局員を懲戒解雇した。また7月には元論説委員長の男性が、ネットカフェ内での盗撮が発覚し、建造物侵入の疑いで書類送検されるという事件もあった。
本業である新聞発行事業では18年の鹿児島、宮崎からの撤退などエリア縮小、同年には安全確保ができないとの理由で大濠花火大会もやめた。記事執筆中にはスポーツ紙である「西日本スポーツ」の発行を23年3月末で休止し、ウェブサイト中心に移行することも発表された。負のスパイラルから抜け出せない印象だ。
新聞業界が斜陽産業であることは明らかで、そのなかでデジタルシフトを目指すのは当然だが、九州を代表する新聞社の戦略としては、あまりにもスケール感と新奇性に乏しい。紙をデジタルに置き換えるだけでは、存在感の低下に歯止めをかけることはできないだろう。結果として、コスト削減と大家業への注力が事業展開の中心になっている。
今まで蓄積したノウハウと資金力を生かせば、もっと多様な戦略が採れるはずだが、そうした気配は感じられない。残念だが今後も低迷が続いていくのだろう。
(了)
【緒方 克美】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:柴田 建哉
所在地:福岡市中央区天神1-4-1
設 立:1943年4月
資本金:3億6,000万円
売上高:(22/3連結)335億9,600万円法人名
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