2024年09月04日( 水 )

技術に疎い文系トップ 投資ファンドを招き入れ墓穴を掘る(前)

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(株)東芝

 東芝の凋落は目を覆うばかりだ。かつて名門企業の代名詞であった東芝は、今や、「物言う株主」たちのオモチャになり、彼らのマネーゲームのカードとして弄ばれている。どうして、こんな無様な姿をさらすようになったのか。歴代トップの足跡から追いつめられた根本の理由を検証してみよう。

社外取締役が「物言う株主」の取締役案に反対

 仰天するようなニュースが飛び込んできた。東芝が6月28日の定時株主総会で諮る取締役候補をめぐり、「物言う株主」の海外投資ファンドの幹部2人が入ることについて、社外取締役(当時)・綿引万里子氏(元名古屋高裁長官)が6月6日夜に報道陣の取材に応じ、反対を表明した。

 『朝日新聞』(6月7日付朝刊)は、

〈綿引氏は「今回の提案は取締役会構成の多様性、公平性、バランスの良さを欠いていると判断せざるを得なかった」と述べた。会社側の人事案に取締役が反対を明言するのは異例だ〉

 と報じた。

 株主総会では取締役候補13人の選任が議題となる。東芝は2019年にファンド推薦の社外取締役4人を迎え入れており、今回の新任候補には「物言う株主」とされるファンドの幹部2人が含まれる。

〈(綿引氏は)「新たに2人のファンドの業務執行者を迎え入れることは、他の株主からはアクティビスト(物言う株主)寄りである、特定の株主に偏っていると見えると言わざるを得ない」と述べた〉

「物言う株主」が取締役候補の約半数

東芝本社ビル    東芝は21年11月、グループ全体を分割する案を公表したが、22年3月の臨時株主総会で株主の反対多数で否決された。そこで4月に分割を中断し、株式非公開化を含む再編案の公募を始めていた。

 株主総会では、再編案の絞り込みを判断する取締役候補の顔ぶれが焦点となる。東芝は株主総会に諮る取締役候補13人を発表した。社内取締役は暫定議長を務める前社長・綱川智氏と前副社長・畠澤守氏が退任し、島田太郎代表執行役社長CEOと柳瀬悟郎代表執行役副社長兼COOの2人だけ。残り11人は社外取締役だ。海外投資ファンドの幹部2人が新たに加わり、「物言う株主」の存在感が増した。

 新任取締役候補で株主の推薦で入ったのは、米資産運用会社ファラロン・キャピタル・マネジメントの今井英次郎氏、米投資ファンドのエリオット・マネジメントのナビール・バンジー氏。さらに、再任候補6人のうち、ファラロン出身のレイモンド・ゼイジ氏ら4人は海外投資ファンド側が推したとされる。全13人なかの6人が、ファンド側と何らかの関係がある。

 取締役会の議長には、M&A助言会社GCA創業者で、現・M&Aアドバイザリー会社フ-リハン・ローキー会長・渡辺章博氏を選んだ。

 候補は社外取締役5人で構成する指名委員会で決めた。委員長は東芝が19年にアクティビストとの協議を経て受け入れたファラロン出身のレイモンド・ゼイジ氏。ゼイジ氏は今回、アクティビスト幹部の直接受け入れを主導した。ファラロンは東芝の大株主で、物言う株主として知られる。東芝株を5.30%保有している。

ゼイジ指名委委員長は東芝の非上場化に賛成

ファラロン・キャピタル社の入るOne Maritime Plaza(米サンフランシスコ市)
ファラロン・キャピタル社の入る
One Maritime Plaza(米サンフランシスコ市)

    東芝は6月6日、定時株主総会の招集通知などを公表した。

 「綿引(万里子)取締役は今井英次郎氏およびナビール・バンジー氏を候補者とすることについて反対している」。招集通知には候補者選定に異論があったことが盛り込まれており、反対意見の公表は異例だ。

 新任候補の1人、今井氏は米資産運用会社ファラロン・キャピタル・マネジメントの幹部。今回の人事案を主導したとされる指名委員会委員長のゼイジ氏もファラロン出身だ。「ファラロン関係者が2人になり、特定株主の偏りを避けるにはゼイジ氏が退任すべきだ」との意見も出た。

 招集通知の添付書類において、綿引氏らがゼイジ氏の動きを問題視した。ゼイジ氏をめぐっては、3月の臨時総会での対応も批判されている。同臨時総会では経営陣が会社の2分割計画を提案し、一部の大株主側がこれに対して東芝の非上場化の検討などを求めた。ゼイジ氏は経営陣の一員だが、株主提案に賛成する意向をSNSで表明した。

 東芝が開示した監査委員会の監査報告書には社外取締役で委員長・橋本勝則氏(元デュポン日本法人副社長)と監査委委員である綿引氏の補足意見が盛り込まれた。綿引氏と橋本氏はゼイジ氏について、「職務遂行上の配慮を欠き、妥当性に虚偽がある」と主張。「このような行為が繰り返されると、(東芝の)統治不全につながりかねない」と指摘した。

(つづく) 

【森村 和男】

(後)

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