2024年12月23日( 月 )

マイナス実質金利の下でのドル高進行(後)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は9月14日号のマイナス実質金利の下でのドル高進行~米国のマイルドランディングを可能とする2大要因~」を紹介する。

(3)米国マイルドランディングがなぜ可能なのか

堅調な米国ファンダメンタルズ

 インフレはピークアウト、FRBは断固とした利上げによりインフレマインドのスパイラル拡大にキャップをかけた。ターミナルレートは3%を超えていくが、そのもとでも米国景気は、雇用・投資・企業利益などが堅調でソフトランディングの可能性もある。実質賃金はマイナスだがコロナ禍の下で潤沢になった貯蓄と好調な雇用環境(給与・賃金)、財政政策の寄与により、消費は容易に失速しない。米国企業は10%近い増収が続き、賃金も上がるが企業の価格決定力も健在で、ドル高による海外利益の換算益減少を除き、利益率が大きく下がる要素はない、高利益が維持されるだろう。

図表11: 米国家計収支動向 (2019年平均比増減)/ 図表12: 米国家計現預金残高推移

図表13: 米国税引き企業利益と対GDP比

FRBの市場フレンドリー傾向に変化はない

 FRBのインフレ抑制優先によりオーバーキルが回避されるのかが鍵だが、長期金利が抑制されていることにより、金融緩和という手段を使える。イエレン財務長官が主張する高圧経済状態を維持するという戦略が生かされるのではないか。比較的タイトな労働需給が続き労働者の強いバーゲニングパワーが維持されることで、企業には労働生産性向上のインセンティブが与えられ、それはサプライサイドも強化する。

 その場合インフレ率3%へとターゲットをシフトする可能性もあり、FRBの市場フレンドリーという傾向は変わることはないだろう。となると2022~2023年はリセッションの年ではなく、長期経済拡大のなかで3~4年ごとに訪れた2013年、2016年のような、ミニディップの年になるかもしれない(図表15)。

 利上げ一巡、利下げが視野に入る2023年中には米国株式は騰勢に転じるかもしれない。

図表14: バーゲニングパワー強める労働者/図表15: 米国の短期経済循環(製造業ISMと長期金利)

(4)“米国衰退論”は誤り~世界の民主自由主義秩序は再構築される

露中の跳梁は“力の空白”を生んだ米国外交の失敗、米国力の低下ではない

 この米国が衰退しつつある大国であるかのようなイメージで捉えられ、それを信じたプーチンがウクライナ侵略の暴挙に走り、習近平が覇権挑戦を試みたりしているが、それはシンプルに間違いである。米国の地政学的プレゼンスの低下は、対テロ戦争が手詰まりになったことから始まった。オバマ氏が核廃絶を標榜し、世界の警察官を辞めると宣言したことで、「力による外交」を放棄したと誤解された。続くトランプ政権はアメリカファーストを唱えて自国中心主義に回帰し、昨年バイデン政権が何も得ないままにアフガンから撤退したことで、世界に大きな力の空白が生まれたことに疑いはない。習近平の南シナ海専横もプーチンのウクライナ侵略もそれにつけ入ったものであることは明らかである。それは米国外交の失敗であるが、米国の力の低下によるものではない。

ウクライナ戦争は世界リベラルデモクラシー秩序再構築の突破口に

 ウクライナ戦争により、より大きな脅威が誰の目にも明らかになり、米国国内の保守派対左翼リベラルの対立は小異であることがはっきりした。今年11月の中間選挙などを経て、理想主義リベラルに偏った米国世論は再び現実主義に振れていくだろう。ドイツのパシフィズム(平和主義)からの転換、フィンランド・スウェーデンのNATO加盟意向など、自由民主世界のベクトルも揃っている。力による現状変更を許さない世界秩序の再構築に向けて、かつてない求心力が高まるのは必至である。世界の自由主義秩序に疑問符を挟んだり、中ロのような米国衰退説を唱えたりすることは、正しくないし、望ましい態度でもないことを強調しておきたい(「米国衰退論”誤りのみならず罪づくり(後)」)。

(了)

(中)

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