『脊振の自然に魅せられて』「秋の花めぐりとスズメバチ」
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暑い夏もすぎ、秋風が頬をかすめて行く。筆者は、山ではもう秋の花が咲き始めるころになったと感じる。
「花を見に行こう」といつもの山仲間を誘う。9月15日(木曜日)
自宅から40分の福岡市早良区 野河内渓谷の無料駐車場に集合。参加者はワンゲルの先輩と後輩3人と花好きの40代の女性も誘い合計6人。登山口まで車3台に分乗して登山口へ移動。脊振山系の福岡市早良区エリアの花乱の滝登山口から、三瀬峠・金山の縦走路コースのアゴ坂峠手前までの花をめぐる山歩きである。
このルートは渓谷沿いを歩く比較的長いルートで、沢も数回渡らなければならない。登山道は森林に囲まれ、太陽の直射日光を浴びることなく、木漏れ日を歩く中級者向けのコースといってよい。
林道の中間地点には秋の七草で紫色のクズの花、小さくて白いラッパ状のヘクソカズラ、紫の穂を伸ばしたシソ科のカワミドリが、陽光のなかで咲いていた。クズは葛湯、葛根湯の原料で葛の根を掘り出し加工する。貴重な植物で、繁殖力が強い。
直射日光の元では、写真撮影に向かないので、これらの花をスマートフォンで記録用に撮影を済ませた。
登山口で車3台を止め、いよいよ登山道へ向かった。このルートは久しぶりである。お目当てのラン科の花:アケボノシュスランに会いに行くのである。開花時期は少し早いが、咲いているだろうかと思いきや、比較的群生している岩場のポイントに僅かに咲いていた。例年より少なかったが、樹木の下の薄暗いところに静かに薄い紅色の花が咲いていた。
撮影には明かりが足りなかったので、デジタルカメラのオートで撮影し、手ブレをしていないか撮影画面を確認した。
女性Tがこの花に夢中でレンズを向けていた。彼女とは昨年、別の場所の春の花の撮影のときに出会っていた。そのときの熱心に撮影する姿に、思わず声をかけたのである。その後、携帯のラインで情報交換をし、今回、花めぐり山歩きに誘ってみた。
アケボノシュスランの撮影を済まし、我々が取り付けた小型道標、支柱型道標を確認しながら先へ進んだ。登山道と並行して流れる沢の音が心を和ませた。
シソ科の花:スズコウジュ。背丈が15㎝、小豆大の純白の花を咲かせ、わずかな生息地で生き延びている。太陽の木漏れ日が当たって純白に輝いていた。見る分には輝いてキレイだったが、撮影すると白トビ(真っ白になる)する。光が強いときは、カメラ撮影は露光を抑える NDフィルターを使用するのだが、今回は記録用の撮影が目的なので、オート撮影で済ます。
撮影後、モニターで確認すると、純白に輝く花に映っていた。さらに登りの緩い登山道をのんびり歩くと、先ほど撮影したアケボノシュスランが所々に1株ずつ咲いていた。背の低い植物なので、目を見開いていないと見落とす。Kは女性らしい視線で花を見つけ、ここも、ここにもと背を屈め、花に「あなたが一番かわいいわ」などと語りかけながら撮影していた。
金山とアゴ坂の分岐点の、14年前に立てた道標の側で休憩した。沢の流れが、心地よく汗ばんだ我々の体と心を癒してくれた。直ぐそばに、炭焼き小屋の跡がある。昭和の時代は脊振山系では方々で炭焼きが行われていた。円形に石積みされた炭焼きの跡がたくさん残っている。その炭焼き跡の石積みも崩れ、かたちを失いつつある。
先輩 Tが、通りかかった高齢の男性登山者に声を掛けた。しばらくすると、その男性は筆者を見て、何処かで見かけたことがあると声をかけてきた。話してみると、職場の女性の父君であった。その女性が「父は山に登ります」というのを聞いていたが、奇遇であった。記念写真を撮り、握手をして、別れた。その人は金山の直登ルートへ進んで行った。
後輩 Hがシャインマスカットを振る舞ってくれた。山では水気のある果物が喉を潤す。いつも果物を持参してくれる、ありがたい後輩である。
休憩を済ませて、少し急な登山道を、可愛い花が咲く場所へ登った。キク科のモミジハグマである。手前には蕾が続き、やがて「あ、花が咲いている」と先を歩いていた後輩から声がかかった。高さ20㎝ほどのモミジの葉に似た植物で、先端に白い輪状の花を咲かせていた。
ここでの撮影を済ませて、もう少し進んでみた。すると、「やっられた」と先輩がシャツを脱いだ。蜂にやられたのだ。やられた箇所が赤く腫れていた。筆者は常時携帯している救急セットからリームーバー(毒を吸い出す注射場の器具)を取り出し、毒を吸い出し、キンカン(虫刺され液状塗り薬)を塗ってあげた。
彼女はチクリと指をやられ、頭にもスズメバチが2匹止まっていた。後輩Hが「蜂をはらうな」と叫んだ。斥候の蜂をはらうと、敵だと思われて仲間を呼びに行く。そういうわけで、彼女は静かにそこにうずくまった。筆者は彼女の頭のスズメバチに防虫スプレーをぶっかけ、頭上でゴソゴソしていたスズメバチを叩き落とした。刺された彼女の手も、リムーバーで毒を吸い出し、虫刺されに効くキンカンで応急処置をした。
そこから引き返し始めたとき、筆者の頭にもチクリと激痛が走った。やはり、スズメバチである。額と髪の生え際も刺されていた。しばらく「やられた」とうずくまった。刺したのはキイロスズメバチのようであった。騒がず、無理にはらわず、冷静に処理したのがよかった。大騒ぎしていたら、スズメバチの大群に襲われていたかもしれない。先輩Tは過去2回もオオスズメバチに刺され、太ももが腫れ上がったことがある。
筆者の激痛は続いた。帰宅して、行きつけの病院へ走り込んだ。「刺されてどのくらい時間が経っているか」と聞かれ、「1時間30分ぐらいです」と答えた。医者はアナフラキシー(アレルギー性過敏反応)を心配していたが、幹部を消毒し、アレルギー用に飲み薬を出してくれた。激痛は1日中続いた。女性 Kも、帰宅してすぐに医者へ行ったと連絡があった。帰りの車のなかでは激痛が治らなかったとも。
筆者が蜂に刺されたのは、小学生以来である。小学校の校庭に咲いていた花にミツバチがたくさん蜜を吸いにきていて、それを手で摘んで蜂をとっていたら、指を刺されたのだ。蜂から針がとれて指に残っていたのを覚えている。胴体から針がとれた蜂は、やがて死んでゆく。蜂にとっては、捨て身の攻撃なのである。
スズメバチは針がとれない。オオスズメバチの針は1㎝ほどもある。
2022年9月20日
脊振の自然を愛する会
代表 池田友行関連キーワード
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