2024年11月24日( 日 )

どうなる?再生可能エネルギー 次世代を切り拓くか(後)

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京都大学大学院経済学研究科
特任教授 安田 陽 氏

 再生可能エネルギーはこれから、どのように普及するのか。ウクライナ情勢で石油価格が高騰し国際情勢が揺れ動くなか、再エネは国が安定してエネルギーを確保できるかという問題にも大きく関わることも明らかになった。注目されていない再エネ分野こそ潜在力があると語る、京都大学特任教授・安田陽氏に再エネの動向と未来について聞いた。

電力市場や系統整備「透明性」の問題

洋上風力発電(撮影:安田陽)
洋上風力発電(撮影:安田陽)

    電力を取引する電力市場や、消費者に電力を届ける設備である電力系統は、さらなる整備が求められている。電力市場では、電力小売業が電力取引で判断するために必要な情報が十分公開されず「不透明」であることや、特定の企業にとって都合が良い仕組みになっている「差別」をなくすことが必要だという。日本の市場構造はまだ発展途上なため、どうしても従来型の火力発電や原子力発電を持つ市場プレーヤーに有利な仕組みになりやすく、新規技術の導入や小規模な発電所の開発がなされにくい。すべての市場プレーヤーがインフラ設備を平等に使えデータが開示されていることが必要だ。

 たとえば、2021年1月に天然ガスが不足して燃料価格が上がり、電力価格が高騰した時も、国内の天然ガス貯蔵量のデータが開示されないため、電力を市場に出し渋っているのか、正当な行いなのかを他の市場プレーヤーが判断できなかった。一方、一部の有力プレーヤーがグループ内の発電部門と小売部門の間で取引しているが、このような行為も現在の法令ではグレーゾーンであり、監視機能も十分でないため、問題がないとされてしまう。また、発電所が電力系統に接続する際も、「空き容量がない」と判断されて接続できないことが問題になっているが、本当に空き容量がないのかということや高額な接続費用の根拠となるデータが十分公開されているとは言い難い。

 2020年に旧一般電気事業者の発電部門と送電部門を切り離す「発送電分離」が行われたが、これもまだ道半ばだ。安田氏は「旧一般電気事業者の発電部門と販売部門が一体化し不透明性を招いているため、『発販分離』を進めることが必要です」と指摘する。旧一般電気事業者が発電設備の約80%を保有しており、自社小売部門と外部の電力小売業に同等の条件で電力を卸供給すること(内外無差別)が徹底されていないため、市場の透明性や非差別性が担保されていないことが懸念されている。

 「日本では、取引の判断の基準になる情報が十分に開示されず、透明性が確保されないため、多くの電力小売業が市場を信頼しなくなっていることが大きな問題です。市場が信頼されてこそ健全な競争が行われるため、信頼される市場になるよう規制機関が厳しく監視する必要があります。原因の一端には、日本の産業界が伝統的に情報を隠したがることもあるでしょう」(安田氏)。

 海外では、適切に情報を開示した方が企業価値は上がるため、法律で定められた以上の情報を開示しているケースもある。欧米では人権問題から衣料品の不買運動も起きており、消費者はたとえ安くても「不透明な取引」の商品を望まない時代になった。市場が不透明なままでは、従来型電源が優先されやすく新規参入者に不利になるため、再エネという新しい技術がどこまで普及するかは、データが十分開示されるようになるかにかかっている。

ウクライナ情勢 エネルギー政策への影響

陸上風力発電(撮影:安田陽)
陸上風力発電(撮影:安田陽)

    ウクライナ情勢で石油価格が高止まりし、エネルギー供給体制が不安定になるなか、欧州では、石油などの従来燃料の輸入に頼らず、再エネの普及を前倒ししようという議論が多くなされている。一方、日本にはその情報が伝わっていないため、再エネや省エネより、石炭火力の復活や原発の稼働をという議論も活発になっている。安全保障のうえでも、他国での戦争に左右されやすいエネルギーに頼るのではなく、再エネなど自国で代替できる方法を考えることが大切だ。燃料価格の高騰により、再エネによる発電やエネルギー貯蔵のコストが相対的に安くなる可能性もある。

 再エネの普及を加速しようという議論が起きない理由に、従来型産業の利益の最大化が優先されていることがある。石油の高騰分を補うガソリン補助金は、「隠れたコスト」を拡大させることになり、事実、2021年度にいずれも最高益となった大手石油元売り3社に補助金が支給される結果となっている。

 「国際エネルギー機関(IEA)は、2050年に電力の再エネの割合は90%まで高める目標を掲げています。風力発電3割、太陽光発電3割、そして電力供給を柔軟に調整できる水力1~2割とバイオマス発電1~2割を導入するのが最適な組み合わせだと考えられています」(安田氏)。

 海外では、電力の需要の波に対応して出力を調整できる「柔軟性」(「調整力」の上位概念)として、風力発電も使われている。バイオマスも熱貯蔵と組み合わせて強力な柔軟性を発揮する。日本では、多くの再エネにFIT制度が使われているため、発電した電力を調整用に回さずすべて販売した方が収益は上がる。

 しかし5~10年後には、電力市場などでの取引時にプレミアムが上乗せされる「FIP制度」や政策支援を介さずに企業同士が契約する「コーポレートPPA」など市場を通した販売が増え、需要の多い時間帯に電力を販売しようという動きが広がると、再エネが柔軟性の供給源として使われるようになる。再エネが再エネを調整する時代は遠い未来の話ではなく、すでに再エネ大量導入が先行する欧州では実現しつつあるのだ。

(了)

【石井 ゆかり】


<プロフィール>
安田 陽
(やすだ・よう)
京都大学大学院経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座 特任教授。1989年、横浜国立大学工学部卒業。94年、同大学大学院博士後期課程修了。博士(工学)。関西大学工学部(現・システム理工学部)助手、専任講師、助教授、准教授を経て、2016年より同職。現在、日本風力エネルギー学会、日本太陽エネルギー学会理事。IEC/TC88/MT24(国際電気標準会議 第88技術委員会第24改定作業部会(風力発電システムの雷保護))議長、IEA TCP Wind Task25(国際エネルギー機関 風力技術協力プログラム 第25部会(変動電源大量導入時のエネルギーシステムの設計と運用))専門委員など。主な著作に『世界の再生可能エネルギーと電力システム 風力発電編 全集』(インプレスR&D)、『再生可能エネルギーをもっと知ろう』シリーズ(岩崎書店)など。

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