2024年11月05日( 火 )

脱「受注型」、自ら企画する建設業がこれからの地方創生を担う(前)

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 従来の受注型を脱して、自ら仕事を企画しつくり出す建設業となることで、地域が元気になるまちづくりを目指すことを目的として、今年3月に設立された「新・建設業 地方創生研究会」。6月16日に東京都内で開催した第1回オープンセミナー「地方創生の担い手」にはオンライン含め約150名が参加した。これからの時代、元気で魅力のあるまちづくりにはどのような視点が必要なのか。

企画提案型への業態転換目指す

(株)安成工務店
代表取締役 安成 信次氏

 「『良い仕事』で評価される『強い会社』をつくることを目指すうえでは、従来の受注形態から脱して、自ら仕事を企画しつくり出す企画提案型建設業への転換が大切です」と(株)安成工務店代表取締役・安成信次氏は提案する。安成氏は同志を集め、互いに切磋琢磨することを目指し、「新・建設業 地方創生研究会」3月に設立した。安成工務店は70年前に大工工務店として創業されたが、今では社内に設計部門を有し、約180名の社員のうち22%が設計を担い、設計・施工で受注している。

 同研究会では、建設業が受注業態から脱して、設計事務所と業務提携して企画力を身に付け、設計をともなう提案型営業を行うことで受注拡大をはたし、さらにそのような提案力を磨くことでPPP・PFIに代表者として参画し、実績を積み、地域に必要な企業としてまちづくりに参画することを目指す。「多くの建設業が企画提案型に転換した社会では、民間投資で公共施設をつくるのが当たり前になり、地域のまちづくりを建設業が担うでしょう。そうなると地域経済が循環して元気になり、手でモノをつくる人が評価され働くことに誇りをもてる社会になると考えています」(安成氏)。

ローカルなら面白いものができる

 地域エコノミスト・日本総合研究所主席研究員・藻谷浩介氏は、「建設業の現状と必要なリーダー像」というテーマで講演を行った。2021年の日本の経常収支は15兆円の黒字で、バブル最盛期の1989年と比べ黒字が倍増している。これは貿易ではなく金利配当(所得収支)によるものだ。2021年時点の建設投資は、海外からの投資もあり民間投資が11年と比べ約14億円、政府投資が約10億円伸びた。一方、株式時価総額が増えても個人消費やGDPは20年以上横ばいで「資産があっても消費しない、投資にまわさない」状況が続く。藻谷氏は「企業が生産性を高めるために人を減らしたことで、人件費が減り、結果的にGDPも生産性も下がっています。コストダウンして貯め込むのではなくコストとして地域に回す方が、地域の他企業の売上になり、地域経済が循環します」と指摘する。

 「1つの商業施設に皆が集まる時代ではなく、大きくつくっても成功しません。新潟県村上市では空き家となった町家を使って、地元の人がユニークなお茶サロン『茶館きっかわ 嘉門亭』をつくり、人口約6万人のまちに多くのお客が訪れています。大手企業が取り組まない小さなプロジェクトに本当の需要があります」(藻谷氏)。

 室町時代に創建された京都の金閣寺や龍安寺の石庭のように、民間による優れた企画提案により開発され、時代を超えてキャッシュフローを生み出す建物が今の日本の観光を支えている。建設業は総合プロデューサーとして、未利用地をイノベーションが起こる空間やビンテージがつく建物などの「資本」に変えて投資を循環させることができる。日本の大都市は世界的に見れば異常なまでの人口過密地であり、多くの「過疎地」はオランダなどの欧州の地方よりも人口が密集している。「私が出かけてお金を使いたいと思うプロジェクトは、東京よりも地方に圧倒的に多いのが現状です。人件費はあまり変わりませんが、東京は地代が高すぎて、同じ投資額では地方と同水準のものをつくることができません。地方のゆとりを生かして魅力的な施設を実現してほしいと感じます」(藻谷氏)。

「ローカルファースト」なまちづくり

 内閣府地方創生推進事務局局長・青木由行氏は、「地方創生まちづくりと地域建設業」というテーマで講演を行った。内閣府は地方の豊かさをそのままに利便性と魅力を備えた地方像、「デジタル田園都市国家構想」を掲げている。近年、イノベーションにおいて場所が重要というのが、世界的な潮流だ。米国ペンシルベニア州ピッツバーグ市など最近生まれたイノベーション地区では、コンパクトな地域に電車などの交通機関やWi-Fiなどの通信環境などが整備され、住居、オフィス、小売店が混在している。

 地方創生まちづくりに必要なものを備えた場所として、岩手県紫波町の「オガールプロジェクト」が挙げられる。スタートして10年経つが、商業施設のほか、図書館、コワーキングスペース、カフェ、マルシェ、保育園などが混在し、地元住民のライフスタイルを変えた。大集積地でなくてもさまざまな機能があり寛容な場をつくれば、さまざまな人が集まる空間ができる。ポーランドのウォーカブルでクリエイティブな人々が集まる町並みは、全国チェーン店が見当たらず、地元スーパーには地元産品を置くコーナーがあるなど、大資本に頼らず地元のものに誇りをもつ「ローカルファースト」なものとなっている。

(つづく)

【石井 ゆかり】

(後)

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