劇団わらび座、完全復活に向けた道程 確固たる経営基盤の確立目指す(中)
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(一社)わらび座
代表理事 今村 晋介 氏1951年に東京で創立し、53年に秋田県仙北市に本拠地を移した「劇団わらび座」は、日本各地の舞踊や民謡を舞台化した作品や、独自のミュージカル公演などで日本屈指の観客動員数を誇ってきた((株)データ・マックスは2017年から福岡公演を主催)。その劇団わらび座を運営する(株)わらび座が21年11月2日、民事再生法手続開始決定を受けた。
今年3月1日には劇団業務などの非営利事業を(一社)わらび座が、温泉・ホテルなどの営利事業を新設した(株)あきた芸術村が引き継ぐかたちで、新たな経営体制がスタートした。
わらび座の今村晋介代表理事(あきた芸術村代表も兼務)に再生への道筋や、今後の取り組みなどを聞いた。(聞き手:(株)データ・マックス 執行役員 鹿島 譲二)
『いつだって青空』 12月に福岡公演
今村 3月1日に新体制がスタート。「前を向いていこう」との機運が醸成され、『いつだって青空』の東京公演やクラウドファンディングの実施など新たな取り組みも行いました。『いつだって青空』の東京公演には、秋田出身と思しき方も多数来場していただきました。物語の主役である井口阿くりが、アメリカで秋田音頭を踊るシーンでは、盛大な拍手が沸き起こるなど、会場からは郷土愛のようなものを感じ取ることができました。
──私も東京公演を拝見しましたが、鬼気迫るものがありました。コロナからの再生という意味合いでも、うってつけの作品だったのでは、と個人的には感じています。
今村 1人ひとりが「わらび座を再生してみせる」という強い決意をもって臨んでいたので、それが観てくれる人にも伝わったのでしょうね。実は、『いつだって青空』は、私が愛媛の坊っちゃん劇場から秋田のわらび座に戻ってきての初仕事だったんです。
ある日、図書館で『日本女子体育の母―井口阿くり女史伝』という1冊の本に出会ったことが『いつだって青空』上演のきっかけとなりました。井口阿くりさんは、1899年にアメリカに留学し、3年後に帰国。東京女子師範学校の教授となってスウェーデン体操、ダンス、バスケットボールなどを学生に教えたほか、日本に初めて体操着のブルマーを紹介した女性としても知られています。当時の日本は、女性がスポーツをするなど考えられない時代でしたが、留学先のアメリカでは男女問わずスポーツを楽しんでおり、井口さんは、それに大変衝撃を受けたそうです。
秋田はかつてスポーツ王国でした。「鬼に金棒、小野に鉄棒」と称された体操選手の小野喬さんは秋田県能代市出身ですし、ラグビーの秋田工業高校、バスケットボールの能代工業高校(現・能代科学技術高校)などの強豪校もあります。『井口阿くり女史伝』の著者である進藤孝三さんは、やり投げの選手で、オリンピック出場を目指していましたが、病気で競技を続けられなくなりました。失意のどん底にいた進藤さんですが、あるとき、井口さんの存在を知り、大変勇気づけられ、秋田に井口さんの博物館をつくることを決意しました。そのために井口さんの収蔵品を収集し、満州にもって行っていたのですが、引き揚げ時に所在が分からなくなったそうです。博物館建設の夢が潰え、さぞかし無念だったことでしょう。
同書に出会ったのは、東京オリンピックの当初開催予定だった2020年の前年、19年のことです。「東京五輪の前年である、このタイミングで井口阿くりさんを取り上げないと、進藤さんの想いは永遠に報われない」と考えた私は、早速、企画を会議に諮りました。当初は皆一様に「井口阿くり?誰?」というリアクションでしたが、粘り強く説明を重ねた結果、上演にこじつけることができました。その後、『いつだって青空』は人気を博し、12月には福岡でも公演を行います。1人でも多くの方に観にきていただけたらうれしいですね。
「いつだって青空」の脚本・作詞を手がけたのは、劇団四季出身で現在はフリーでミュージカルの台本執筆、翻訳、訳詞を行っている高橋知伽江さんです。高橋さんはディズニー映画の訳詞も手がけており、映画「アナと雪の女王」で使用された楽曲「Let It Go」の日本語バージョンの訳詞を担当したことでも知られています。
タイトルの「いつだって青空」には、「雪が降っても、大雨が降っても雲の上は青空だ。だから上を向いて頑張ろう」との意味が込められています。今のわらび座は、まさに「どん底」の状態かもしれませんが、現在の苦しい状況を乗り越えれば、その先には青空が広がっていると信じ、前を向いて歩んでいくつもりです。
──「いつだって青空」にはリピーターも多いと聞きます。
今村 19年から公演しているのですが、リピーターから「観るたびに新たな感動がある」という感想が数多く寄せられています。もちろん舞台はブラッシュアップされていますが、内容自体は変わっていません。おそらく、この数年でコロナ禍、ウクライナ戦争などがあり、観る側の平和への想い、今生きていることのありがたさなど、さまざまなものが変化した結果、舞台の観え方が変わってきたのだと思います。
(つづく)
【文・構成:新貝 竜也】
<プロフィール>
今村 晋介(いまむら・しんすけ)
1979年生まれ。千葉県袖ケ浦市出身。茨城大学を卒業後、(株)わらび座に入社。2014年に(株)ジョイ・アート出向。取締役・坊っちゃん劇場支配人に就任。18年(株)わらび座帰任。取締役・劇場事業本部長就任。21年に(一社)わらび座代表理事に就任。法人名
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