2024年07月16日( 火 )

必至のポートフォリオ大改造 日本株爆騰開始前夜か(前)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は9月14日号のマイナス実質金利の下でのドル高進行~米国のマイルドランディングを可能とする2大要因~」を紹介する。

1.    思い知らされる債券投資リスク

 惨憺たる9月が終わった。8月末のジャクソンホールでのパウエルFRB議長スピーチ以降、市場で広がっていた早期利下げ期待が急速に後退した。とくに9月21日のFOMCによるターミナルレートの大幅な引き上げが決定打となった。FFレート年末予想値(参加メンバーの予想中央値)が2022年末4.4%、2023年末4.6%と、6月時点での予想(2022年末3.8%、2023年末3.8%)から、それぞれ1%もの大幅引き上げとなり、底値買いを狙って買いを入れた短期筋のはしごを外した。米国長期金利の急騰に突き動かされ、四半期末と重なって世界株式は底割れの惨事となった。楽観論総崩れの様相である。

金利急騰の直撃を受けた英国年金のレバレッジ型債券投資

 象徴的なのは英国金融市場の混乱であった。折悪しく、FOMCのドットチャート発表、米国長期金利の急上昇とほぼ同時(23日)に、トラス新首相とクワーテング新財務相による450億ポンドの減税を含むミニ予算が発表された。これが財政赤字不安を掻き立てたことで、イギリスでは長期金利が急上昇し、スターリングポンドの急落、株価急落をともなってトリプル安が起きた。

図表1: 日米英独の10年国債利回り推移/図表2: FFレートとFOMCメンバーの年末予想値
図表1: 日米英独の10年国債利回り推移
図表2: FFレートとFOMCメンバーの年末予想値

 この英国長期金利の急騰を引き起こしたのは年金筋の国債売りである。英国の確定給付型年金では、リスクの高い株式を大きく減らし債券の比率を高める一方、レバレッジを使ってリターンを高める戦略(Liability-Driven Investment Strategy)がとられてきた。そこに債券価格の急落が襲い、担保価値の急減、追証の発生と売りが売りを呼ぶ連鎖を引き起こした。イングランド銀行は緊急避難策を発動し、国債の緊急買い入れ(事実上のQEの復活)を実施しパニックは収まったが、金利リスクの大きさを思い知らされる事態となった。 

日本でも懸念される機関投資家の外債投資損失

 米国長期金利の急騰による損失は、日本の機関投資家においても発生していると推察される。米国長期国債価格は過去1年間で2割下落した。この損失は、過去1年間の2割以上の円安による為替益によってまるまるカバーされた。しかし為替ヘッジをしていた投資家は、米国国債の暴落の直撃を受けることになった。図表3は元日経新聞編集委員、前田昌孝氏による週刊「マーケットエッセンシャル35号」に掲載されている野村NEXT FUNDS外国債券・FTSE世界国債インデックスETF(為替ヘッジあり、なし)のトータルリターン価格の推移である。為替ヘッジありのETF価格は、昨年高値以降20%を超える下落となっている一方、為替ヘッジなしのETFは前年比ではプラスが維持されており極端な対比となっている。 

 ここにきての円急落、為替ヘッジコストの急上昇により、日本の銀行、生損保など機関投資家はヘッジ比率を引き下げていると推察されるものの、図表4に見るように、4割程度はヘッジされているのではないか。とすれば各社において相当の運用損失が発生している可能性がある。 
図表5は第一生命一般勘定における2022年度の資産運用方針であるが、公社債48%、ヘッジ付き外債17%、貸付金7%、株式など15%、オープン外債5%、不動産その他8%となっており、外国債券の2/3が為替ヘッジがされている。ヘッジ外債は安全資産であるという思い込みが大きな見込み違いを引き起こした可能性がある。 

 日本最大の外債プレーヤーはゆうちょ銀行で、郵便貯金で集めた資金を内外市場で運用している。235兆円(22年6月末)の運用資産のうち141兆円が有価証券運用に振り向けられ、そのうち76兆円が外国証券(大半は債券)である。この外債投資が為替ヘッジ付きでなされているとすればそのダメージは無視できないだろう。 

真打は予想される日本国債大幅下落・・・・・YCC解除は時間の問題

 このように欧米の金利急騰が波乱を引き起こしているが、金利リスクとなればまず懸念されるのが、今はYCC(イールドカーブコントロール)で抑えられている日本の長期金利の帰趨である。日銀による政策変更はまだ見通せないが、どこかの時点でサプライズが起きる可能性は十分にある。市場はそれを予期して日本国債を売り始めるかもしれない。日本の長期金利急騰、債券暴落は2~3年の中期予想ではメインシナリオになっていくかもしれない。

図表3: 為替ヘッジ付き対ヘッジなしETF価格推移から見る外国国債投資の明暗/図表4: 国内生保会社のドルヘッジ比率推移/図表5: 第一生命2022年資産運用方針
図表3: 為替ヘッジ付き対ヘッジなしETF価格推移から見る外国国債投資の明暗
図表4: 国内生保会社のドルヘッジ比率推移
図表5: 第一生命2022年資産運用方針

(つづく)

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