「人がいない」企業と「企業がない」学生 採用環境の変化に必要なアップデートとは(後)
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どの企業においても人材不足が叫ばれる今、新卒採用についてはさらに厳しい状況にある。「若者が来ない」と話す経営者が多い一方で「応募したいと思える企業がない」と学生は話す。人材を求める企業と応募する企業がないと思う学生たち。この乖離はどのようにして起こっているのか、検証したい。
学生にとっては「全部同じに見える」
これまで消費者という立ち位置だった学生にとっては、会社(とくにBtoB企業)それぞれの違いは理解しにくい。直近3年間で就活を経験した学生または社会人に話を聞いたところ、就活サイトで希望条件(業種、職種、雇用形態など)を入力して表示される企業を見ても、「全部同じように見える」という。たとえば、建設工事業者であれば「社会の重要なインフラを支えています」「縁の下の力持ち」という言葉を使うことが多く、みな同じような言葉で自社を表現している。
転職を2度経験した20代女性は「その企業の色を見てみたいと思い、代表挨拶のページを見てみたが、形式ばった言葉が並んでいてあまりよくわからなかった」という。企業という法人組織である以上、砕けた言葉を使うことはできない。しかし、あまりにも整いすぎた言葉の羅列は「堅苦しい」ととられるほか、AIによる自動生成の言葉のように見えてしまう。
これらを踏まえると、ホームページのアップデートに必要となるのは「自社の社会的意義を見つめ直し、それを学生側に打ち出すこと」だ。法人という意味で社会に対して公的な存在である企業はすべて、社会をより良くするために存在している。だが、その社会も日々変化し続けており、企業の立ち位置も刻々と変化しているため、マクロな視点をもって自社を表現する必要がある。
更新滞るホームページに積極性を感じない
ホームページの見づらさも企業の魅力度を下げてしまう一因となる。デザインや情報の更新が止まっていると「情報発信の部分にお金や時間がかけられないのではないか」と感じるという。実際に、いくつかの企業のホームページを見ていると採用ページに限らず企業の新着情報が2016年で止まっていることもあった。現在就活している23卒学生(留年・浪人経験がない場合)にとって2016年は高校1年生。彼らにとってそれは十分「昔」と捉えうるもので、情報の更新がないままということは対外活動に対して熱意がそれほどないのではないかと感じてしまう。
ホームページは採用活動に限らず、認知度を高めていくための広報活動の1つであり、とくにネットサーフィンが得意で検索の手間をいとわない若者は真っ先に見る部分だ。せっかくお金や手間をかけてつくった自社の看板ともいえるホームページも更新されなければ、昭和体質(※2)で自分たちの世代とのギャップが大きいのではないかと若者に危惧される可能性もある。
また、ホームページ内にFacebookアカウントを掲載している企業も多い。SNSの企業アカウントが存在するのは広報活動にも力を入れていると見られ、好印象ではあるのだが、若者からするとFacebookは大人が使うものという印象が強い。Instagramと違い、Facebookはログインなしでもブラウザから閲覧しやすいことや、取引先に対する情報発信においては優れている。だが、若者の利用者が少なく、登録していてもほとんど見ていないことのほうが多い。偶然投稿を見かけて出会うということは少ないため、若者としてはホームページからアカウントを知って投稿を見るのが主になる。企業の広報活動としては適した媒体なのだが、採用活動の一環として使うにはやや不向き。「売り方を間違えればいくらいいものでも売れない」という点では、採用活動は「営業活動」の1つだと考えていいだろう。
※2:年功序列、縦社会で、デジタル化など変革を受け入れにくい体質のこと ^
社会に出て初めて学問の意味を知る
「学生の本業は勉強にあって、就活に追われるのは本末転倒」という考えもある。たしかにさまざまな就活サービスが登場したことで大学生活において就活に割く時間は圧倒的に増えた。これらの活動に追われて授業を欠席するようでは大学に入った意味が薄れてしまう。しかしその一方で、「大人になって(実際に社会のなかで仕事をして)初めて『勉強』の価値を知った」という人も少なくないはずだ。何か学びたい分野があって大学に入った人でも、苦手な分野を忌避してしまい、社会人になってから苦手と向き合うことになるというケースや、もう少し勉強したいと後ろ髪をひかれながらも卒業の日を迎えてしまったというケースもある。社会に触れるという経験は、これまで学校という閉鎖的空間でしか生きてこなかった学生が初めて学問の有用性を知るために必要なのだ。
今回、話を聞いていくなかで23卒の大学4年生が「いまの就活生は『理想の就活生』になろうとしている」と話していたのが印象的だった。集団面接を経験していればわかることだが、みな同じようなことを話したり、良いところを過剰に美化したりする。企業からの好印象を受けたいがために起こることなのだろうが、これではミスマッチの発生リスクがあり、企業にとっても学生にとっても良くない。
厚生労働省の「就職差別につながる恐れのある不適切な質問の例」を見れば、どのような質問がどのような理由でコンプライアンス違反となるかは明らかなのだが、これに派生して過剰に質問を制限する風潮が流布していると感じる。「趣味嗜好」を聞かれるのが嫌だと感じる人もいれば、人となりがわかるために回答を快諾する人もいる。感覚に個人差があるために難しい問題ではあるが、合意できる質問を行い、合意できなかったとしても双方が過剰に評価を下げるべきではない。
企業と学生の間の乖離は、企業側の自己分析力・アピール力の向上でひとつめのハードルは下げられる。もちろん、学生側においても問題があるため、一朝一夕には改善できないのだが、まずは双方が「待ち」の姿勢を止めることから始めてみてはどうだろうか。
(了)
【杉町 彩紗】
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