2024年12月23日( 月 )

日本初のQ&A投稿サイトが存亡の危機 「50億円詐欺事件」をめぐり内ゲバ(前)

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 Q&A投稿サイトとは、利用者が質問を公開し、回答を募って疑問を解消する仕組みを提供するウェブサイト。日本で初となるQ&A投稿サイトを運営するオウケイウェイヴは、かつてはマイクロソフトが出資し、Googleを超えると期待されたベンチャー企業の雄であっが、いまや見る影もない。お家騒動に明け暮れて、存亡の危機に立たされている。何で稼ぐかのビジネスモデルが欠落したベンチャー企業特有の「貧すれば鈍する」の転落劇であった。

臨時株主総会で経営陣総入れ替え

ネットサービス トラブル イメージ 8月25日、日本最大級のQ&A投稿サイトを運営する(株)オウケイウェイヴ(名証ネクスト上場)は臨時株主総会を開き、経営陣が総入れ替えになった。

 同社が開示した臨時報告書によると、現代表取締役・杉浦元氏(52)らの株主提案が可決され、当時の福田道夫社長(51)と野崎正徳取締役(52)が解任(解任賛成はともに61%)、杉浦氏を含む計5名の取締役選任が賛成61%で可決された。一方で、会社提案による杉浦氏を含まない計5名の取締役選任案は17%の賛成にとどまり否決された形だ。
 経営陣総入れ替えのクーデター劇である。

 ところが、解任された前経営陣は、9月21日、総会決議の取り消しを求めて東京地裁に提訴。同時に、現経営陣の職務執行を停止する仮処分を申し立てた。

 お家騒動は裁判で争われる事態にエスカレートして、泥沼化した。これまでの経緯を人物中心に振り返ってみよう。

創業者は「ホームレスから上場会社の社長」に

 創業者は兼元謙任氏(56)。ニュービジネスのスーパースターとして、小学館、大和書房、東洋経済新報社から「ホームレスから上場会社の社長になった」経緯を記した自伝を出版している。本欄では、『日経BizGate』(2019年12月2日付)に掲載された兼元氏のインタビュー記事に基づき記す。

 在日韓国人三世として名古屋市に生まれた(現在は帰化)。小学校の高学年から中学校のころに繰り返し病と闘う。筋肉が弛緩する病気に悩み、ギランバレー症候群と診断された。一時は死にたいと思ったこともあった。

 愛知県立芸術大学美術学部デザイン学科卒。デザインの仕事に奔走し、自らデザインした製品で賞を受けるほどになった。学生のときに知り合った女性と結婚して子もなした。

 だが、30歳でホームレスとなる。デザインの仕事で渡米する話が出て、会社を辞めたところ、急に破談になった。落胆して名古屋の家へ戻ると、誰もいない部屋に妻の判子を押した離婚届けがあった。再起を期して上京したが仕事先が見つからず、東京・渋谷区や港区の公園を転々としながら寝起きするようになった。ホームレスのまま、仕事を始める。最初は、名刺のデザインを行い、やがてホームページのデザインを引き受けるようになった。

Q&Aサイトを立ち上げるきっかけ

 Q&Aサイトを立ち上げるきっかけをこう語っている。

 ホームページの仕事を初めてしたとき、ネットにつながるパソコンを借りて掲示板サイトにホームページのつくり方について質問すると、回答が来るどころか、尋ね方がなってないと非難された。その疎外感が、国籍がもとでいじめに苦しんだ自分の子どものときの体験と重なった。

 誰でも気軽に質問でき、良い回答が得られる。さらにその回答を蓄積して、あとで誰もが自由に読み出せるQ&Aサイトをつくろう。実現すれば自分のなかにある長年のモヤモヤが消えるかもしれないと、次々に構想が膨らみ、「その世界が見たくてしょうがなくなった」(兼元氏)。

 1999年7月、東京・町田市に会社を設立。2000年1月、Q&Aサイト「OK Wave」の運用を開始した。サイト構築に使うサーバーを買うお金は、仲直りした妻が提供した。ホームレスのとき、罪滅ぼしに妻へ仕送りしていた仕事の稼ぎが貯金されていた。

 兼元氏は「感謝するしかない」と振り返る。

お家騒動の主役は、創業メンバーの仲間だった

 オウケイウェイヴは2006年6月名証セントレックスに上場した。

 当時の有価証券報告書をめくると、ある点に目が留まった。今回、壮絶なお家騒動を繰り広げている人物たちが、取締役に名を連ねているのだ。

 代表取締役社長(ポータル事業部長)が兼元謙任氏。ナンバー2の副社長(ソリューション事業部長)が福田道夫氏。ナンバー3が取締役(財務部長)の野崎正徳氏。ナンバー4の取締役(経営企画室長)が杉浦元氏。

 株式上場したときは、Q&A投稿サイトの全国普及に燃える若い青年たちだった。16年後、“仲間割れ”して権力闘争に明け暮れるようになるとは、思いもよらなかったに違いない。

 解任された福田氏は慶應義塾大学環境情報学部卒。日本電信電話(株)を経て00年にオウケイウェイヴに入社した生え抜き。同じく解任された野崎氏は会計事務所から同じ00年にオウケイウェイヴに転じた。

 一方、解任する側になった杉浦氏は、早稲田大学理工学部卒。大和企業投資(株)でベンチャー企業への投資業務に従事。スカイネットアジア航空(株)設立に参画後、ベンチャー企業の成長・株式上場を支援。オウケイウェイヴには設立から参画した。

 苦楽を共にした創立メンバー3人が、袂を分かつようになったのはなぜか。

(つづく)

【森村 和男】

(後)

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