2024年07月16日( 火 )

日本初のQ&A投稿サイトが存亡の危機 「50億円詐欺事件」をめぐり内ゲバ(後)

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 Q&A投稿サイトとは、利用者が質問を公開し、回答を募って疑問を解消する仕組みを提供するウェブサイトのことである。日本で初となるQ&A投稿サイトを運営するオウケイウェイヴは、かつてはマイクロソフトが出資し、Googleを超えると期待されたベンチャー企業の雄であった。いまや、見る影もない。お家騒動に明け暮れて、存亡の危機に立たされている。何で稼ぐかのビジネスモデルが欠落したベンチャー企業特有の「貧すれば鈍する」の転落劇であった。

仮想通貨事業に成長を託す

赤字 イメージ    1990年代から2000年代前半のネットバブル時代に、インターネットを活用するニュービジネスが、それこそ雨後の筍のように誕生した。だが、千三つの世界だ。ほとんどが消えていった。何で稼ぐかの肝心のビジネスモデルが欠落していたからだ。

 鳴り物入りで上場したオウケイウェイヴもしかり。Q&Aサイトのシステムは、当初からクラウドサービスの月額課金(サブスクリプション)として提供していたが、それで食っていけるわけがなく、主な収入源は別に行っていたウェブデザインの仕事だった。

 株式上場をはたしたものの、2018年6月期の売上高は37億円にとどまった。成長軌道に乗せることが新興上場会社の課題だ。

 松田元氏(38)が登場する。高校中退後、フリーターや海外放浪生活を経験し、帰国後、早稲田大学商学部に入学。在学中より学生ベンチャーを創業。フリーターによる営業代行というビジネスモデルが当たり、アズ(株)を設立した投資家だ。

 17年9月、松田氏は仮想通貨事業をともないオウケイウェイヴ取締役に就任。翌18年7月、創業者の兼元氏が代表取締役会長に、松田氏は代表取締役社長になった。

 松田新社長はただちに暗号資産ビジネスに進出した。収益の柱に据えるために、暗号資産交換所の買収などに多額を投じたが、いずれも収益化できなかった。当時はコインチェック事件で「暗号資産冬の時代」だった。

スカウトした社長が保有株を大量に売却

 松田氏は19年7月にオウケイウェイヴ株の保有比率を8.94%から22.0%にいっきに高めた。創業者の兼元氏から130万株を取得したのだ。兼元氏の保有割合は24.49%から9.18%まで低下した。兼元氏は会社を松田氏に売り渡したのだ。

 暗号資産ビジネスで失敗した松田氏は回収に入る。松田氏は20年2月から3月にかけて、保有する株式を大量に売却。当時、過去にオウケイウェイヴが発行した新株予約権付社債による5億円の償還期限が迫っており、償還猶予を求めるか検討している最中だった。

 このときの大量売却がインサイダー取引にあたると指摘され、松田氏は20年4月、社長を引責辞任した。福田道夫取締役が社長に昇格した。創業者の兼元会長は20年9月、取締役を退任。会社とは完全に縁が切れた。

インド人金融業者の手玉にとられた「50億円詐欺事件」

 オウケイウェイヴは、お家騒動に明け暮れるなど、一段と混迷を深めた。いうところの「50億円詐欺事件」である。

 ジャーナリストの伊藤博敏氏は、『NEWSポストセブン』(22年9月26日付)に『50億円詐欺被害のオウケイウェイヴ前社長を直撃 民事と刑事で起こした訴訟の行方は』と題して、解任された福田道夫前社長のインタビュー記事を寄稿している。引用する。

 混乱のきっかけは投資の失敗だった。
 インド人の金融業者のスニール・ジー・サドワニ氏の“甘言”に乗って「IPO(新規公開株)の特別枠」に約50億円を投資したところ、入金された資金を他の投資家の利払いに回す「ポンジスキーム」という詐欺だったことが発覚した。

 (中略)フィンテック事業に進出して株価も高騰したが、前社長(注・松田氏)のインサイダー疑惑などの不祥事もあり、軌道を修正してメインのソリューション事業を約71億円で売却、21年6月期決算で約60億円の特別利益を計上した。

 この手元資金を遊ばせておくわけにはいかないと、福田氏が経営管理本部長・野崎氏に指示して、スチール氏の会社であるRaging Bullへの投資を検討させた。

 インドの金融業者にまんまと手玉に取られて50億円の詐欺被害に遭った。
 投資失敗の責任を追及して、昔の“お仲間”である杉浦氏が、福田、野崎両氏を解任したわけだ。

売上は8億円、純損益は51億円の赤字

 2022年6月期末時点の株主を見ると、創業者の兼元謙任氏の持ち株比率は3.01%。売り逃げた元社長・松田元氏はゼロ。解任された前社長・福田道夫氏は1.69%。旧経営陣を解任した杉浦元氏は1.41%だ。

 オウケイウェイヴの2022年6月期の連結決算は、売上高はわずか8億3,200万円、最終損益は51億2,000万円の赤字。債務超過転落寸前だ。およそ企業の態を成していない。

 「貧すれば鈍する」という諺がある。金繰りに困ると、頭のなかはカネの工面でいっぱいになり、ほかのことは頭が回らない。

 暗号資産ビジネスに入れあげた揚げ句に、詐欺師に手玉に取られた転落劇。責任のなすり合いで、お仲間だった創業メンバーが泥沼の抗争を繰り広げる。その姿には、かつて米Googleと期待された面影はどこにもない。

(了)

【森村 和男】

(前)

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