2024年07月16日( 火 )

中国宮廷革命と日本への影響(中)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は10月31日号の「中国宮廷革命とその日本への影響~今回Jカーブ効果がとくにパワフルになる理由~」を紹介する。

(2)必至の対中封じ込め、急がれる生産拠点の脱中国化

 米国の対中封じ込め政策は、一気に高まるだろう。10月7日米国商務省は、「半導体、スーパーコンピューターなどに関した対中輸出規制」を著しく強化した。最先端ロジックに限定していた規制対象の範囲を大きく拡大、対象企業も長江メモリー(YMTC)など、31社・大学に拡大した。また迂回輸出を遮断するエンドユース規制、許可例外の厳格化、が打ち出された。早くも、アップルへのNANDフラッシュメモリー初納入が決まっていたYMTCの商談が事実上キャンセルされた。

 また米国人、米国企業のYMTCへの設計、技術、協力が禁じられる。今後、包括的対中対抗法案として上下院で調整が続いている「米国競争法案」の下院案にあるアウトバウンド規制(対外直接投資や重要な生産能力・サプライチェーンの国外移転の審査制度の導入検討)などより広範、かつ厳格な規制が矢継ぎ早で打ち出されるだろう。いずれ中国で生産しているアップルやテスラは、生産拠点の脱中国化を推し進めざるを得なくなるだろう。

脱中国で日本へのハイテク産業回帰が鮮明になるだろう

 急ピッチの地政学的緊張の高まりに世界の経済が追いついていない。今後、産業界においても脱中国の機運が醸成されていくだろう。今は新疆ウィグル、チベット、香港など辺境に対してのみ適用されている人権抑圧の認定を本土に対しても広げてくるかもしれない。産業の中国脱出のニーズの高まりに対して、どこが受け皿になり得るかと考えると、日本の優位性が浮上してくる。

 日本ではかつての工場海外移転の結果、人材の不足、シナジー効果の喪失などが語られるが、それでも多くの工業力の基礎を残している。最先端半導体では日本の地歩は失われたが、キオクシア、ソニー、ルネサスエレクトロニクスなどの日本メーカーに、マイクロンテクノロジー(エルピーダメモリ―広島工場主力)、ウエスタンデジタル(生産はキオクシアと連携)などの海外企業の生産拠点を加えると、半導体世界生産シェアは19%、半導体製造装置は世界シェア32%、半導体材料56%(いずれも2020年OMDIA調べ)と、総合的工業基盤は世界でもトップクラス、米国や欧州より優位にある。機械、計測機器、部品、素材などの分野で圧倒的な世界のリーディングカンパニーを多数擁している。それらが日本に回帰するだけで大きなシナジーが再生されるはずである。

図表1:半導体関連世界市場規模と各国シェア推移

 富士フィルムは中国の複合機技術の情報開示・譲渡を強制した中国に対して、現地工場閉鎖というかたちで対応した。またキヤノンの御手洗会長は「経済の影響を受ける可能性のある国々においては(生産拠点を)放置しておくわけにはいかない。より安全な国へ移すか、日本に持って帰るか、2つの道しかない。メインの工場を日本にもって帰る」「日本国内での生産コストが低くなる円安も「(国内回帰の)大きな理由の1つ」と述べ(10月26日)、潮目の転換に向き合う決意を見せた。

続々と動き始めた生産拠点日本回帰

 総額1兆円に達するTSMCの熊本工場建設が動き始めた。TSMCはさらに、より先端の第二工場建設の意向をもっているとWSJ紙が伝えている(10/19付「台湾TSMC、日本で生産増強検討 地政学リスク低減」)。半導体の技術競争においてインテル、サムスンを引き離しトップ独走態勢に入ったTSMCにとって、台湾一国生産は大きなリスクである。海外生産体制の拡充は焦眉の課題だが、そのもっとも有力な拠点が日本になる可能性が高い。

 その他、スバル大泉工場でのEV生産棟60年振りの新設、ルネサスエレクトロニクスの甲府パワー半導体工場再稼働、SUMCOの伊万里新工場建設、住友金属鉱山のニッケル電極材の新居浜新工場建設、アイリスオーヤマの中国での収納用品を中心としたプラスチック製品生産の一部国内移管、京セラの鹿児島川内工場半導体パッケージ用新棟建設、ダイキン工業の中国依存のサプライチェーン国内移管、キヤノンの宇都宮での露光装置工場21年振りの新設、安川電機の基幹部品生産の国内回帰と福岡行橋工場建設、富士フィルムのバイオ医薬品受託生産富山工場建設、など数100億円規模の投資プランが続々と動き始めている。今後、円安定着がはっきりするにつれて国内への工場回帰が強まり、投資の伸びはさらに高まるに違いない。

図表2: 政策投資銀行設備投資計画調査長期推移

(つづく)

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