【古典に学ぶ・乱世を生き抜く智恵】菊池寛の言葉に学ぶ~約束は必ず守る。それが人生の掟だ~
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作家、菊池寛(1888~1948)は香川県高松に生まれる。中学3年のとき、高松の図書館の2万冊の蔵書のうち、歴史や文学関係のものはすべて読破。京都帝国大学英文科卒。1917年、資産家の娘と結婚。その後『中央公論』に発表した「無名作家の日記」や「忠直卿行状記」が高評価され文壇での地歩を築く。新聞に連載した大衆小説「真珠夫人」が大評判となり、一躍人気作家となる。23年、若い作家のために雑誌『文藝春秋』を創刊。芥川賞、直木賞を設立し、作家の社会的地位の向上にも貢献。
終戦後、GHQから公職追放の指令が下される。日本の「侵略戦争」に文藝春秋が指導的立場をとったというのが理由だった。48年、狭心症を起こし、59歳で急死した。
約束は必ず守る。それが人生の掟だ。
時折、罠をかけられたと嘆く者に相談されることがある。確かに人を罠にかける者は卑しいが、罠にかかる者も同じくらい卑しい場合が多い。
兎にも角にもこの世では勝つ者が強い。多く勝つ者こそが結局強いとしか言いようがない。しかし、一局一局の勝負となると、強い者が必ず勝つとは言い切れない。人生は一局の将棋だ。素人将棋のように一度の待ったも、指し直しもできない厳粛な勝負だ。約束は必ず守る。それがごく当たり前の人生の掟だ。約束を守らないと社会生活は成り立たない。他人との約束はもちろんだが、なかでも自分自身との約束は決して破ってはならない。自分で自分を信用できなくなるからだ。そうなれば大志は萎み、転落の一途をたどることにもなりかねない。どんなつまらなそうな日々の片隅にも、暗雲立ち込める境遇にも一縷の望みはある。それが人生の妙味というものだ。
何事にも相手が自分よりはるかに上だと怯えてかかると、手も足も出なくなる。たとえいかに卓越した技術であっても努力次第で誰でも達し得ると断言してもいい。だが並大抵の努力ではそれは叶わない。長期に渡る努力にはその人間の性格、心構え、覚悟、度量といったものが深く関与してくる。真似ることもよかろう。ただ真似をする者はその真似をされる者より劣るは必定。自分自身の工夫を加え、それをさらに変容させて独自のものをつくり出さなければならない。
善は美よりも重大である。
宗教を否定する気持ちはさらさらない。他人の宗旨をとやかくいうつもりも毛頭ない。ただ、冷静に考えてみると来世に希望をつなぐ信仰よりも、現世をよく生き抜く覚悟こそが安心の種になるのではないだろうか。
人間は生きている間に、精魂込めて自分の仕事をし、生活も楽しめば安心してあの世に旅立てるのではないか。人への親切や世話は、人間としての義務ではなく、自分の心のささやかな慰みとしたいものだ。正直に言おう。私には社長としての値打ちは何もありはしない。ただ、製作する全作品の原稿をしっかり読んでくれればいいということだった。それなら私にもできそうだと思ったから社長を引き受けたまでだ。
いうまでもなく作家の原稿を読むというのは目を通すことではない。もはや文芸の貴族政治は過去のものとなった。創作は少数の天才や才人だけのものではない。今や作家を志すすべての者に門戸が解放されているのだ。ただし、より多くの人々に読まれるのが、肝心だ。読まれない文芸などは、純文学だろうが何だろうが、結局飛べない飛行機、針の動かぬ金時計と同じものである。
たいていの作家は善よりも美だという。だが、経営者にとっては何といっても善は美よりも重大だ。善の代表格は何といっても金だ。実は人生のあらゆる不幸は金でかたづけられると言っても過言ではない。
<プロフィール>
劇団エーテル主宰・画家
中島 淳一(なかしま・じゅんいち)
TEL:092-883-8249
FAX:092-882-3943
URL:http://junichi-n.jp/関連キーワード
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