2024年11月25日( 月 )

DHC創業者、「ヘイトスピーチ」でバッシングを浴びる オリックスへ身売り(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

 「物言わぬは腹ふくるるわざ」という。とはいえ、何んでもかでも思ったことをいえばいいということでもない。「物言えば唇寒し秋の風」という諺がある。「物言う」とは、もっぱら他人を批判すること、文句をつけること。物を言った人間は反感や恨みを買うことになる。DHCがオリックスに身売りした。創業者の吉田嘉明会長の「ヘイトスピーチ」が社会的なバッシングを浴びたからである。

「ニュース女子事件」で吉田氏の「ヘイトスピーチ」が広く知られる

DHC イメージ 東京MXテレビ(MX)の情報バラエティー番組「ニュース女子」事件は記憶に新しい。女性のための「ニュース&時事問題」と謳って始まった「ニュース女子」は、DHCが番組の制作を担った。

 2017年1月2日放送の「ニュース女子」は、沖縄の米軍基地反対運動を取り上げた。沖縄・高江の米軍ヘリパッド建設をめぐり先鋭化する反対運動の特集で、VTRで「(運動参加者が)日当を貰っている!?」など表現、反対派による救急車の運行妨害などを伝えた。

 これについて放送倫理・番組向上機構(BPO)は17年12月、事実に基づかないとして「重大な放送倫理違反があった」との意見書を公表した。

 北朝鮮支持の辛淑玉(シン・スゴ)氏が「基地反対運動の黒幕」と受け取れる内容になっていたとして名誉棄損で訴えた。東京地裁は21年9月、DHC側による名誉棄損を認め、550万円の支払いとウェブサイトへの謝罪文の掲載を命じた。「ニュース女子」の放送は21年3月に終了した。

 番組の制作を担ったDHCの吉田嘉明会長がついに沈黙を破り、産経新聞社のオピニオンサイト「iRONNA(イロンナ)」(18年4月30日付)に独占手記を寄せた。
吉田氏は手記のなかで、BPOについて「委員のほとんどが反日、左翼という極端に偏った組織」と痛烈に批判。「私どもはわが同胞、沖縄県民の惨状を見て、止むに止まれぬ気持ちから放映に踏み切ったのです。これこそが善意ある正義の行動ではないでしょうか」と綴り、BPOの勧告に真っ向から反論した。
 「ニュース女子」事件が、吉田氏の「ヘイトスピーチ」を広く知らしめる転機になった。

サントリーやNHKに攻撃の矛先を向ける

 吉田氏の「ヘイトスピーチ」はより過激にエスカレートしていった。

 DHCがヘイト満載の文章を初めて掲載したのは20年11月。吉田氏は自社のキャンペーンについて説明するなかで、サプリメントの販売で競合する「サントリー」をやり玉に挙げ、「サントリーのCMに起用されているタレントはどういうわけかほぼ全員コリアン系の日本人」「ネットではチョントリーと揶揄されている」と記述。在日コリアンを蔑視する表現を使った。

 NHKは21年4月9日の朝の番組「おはよう日本」で、この文章を批判的に報じた。すると吉田氏は、NHKに矛先に向けるかたちでさらに追記した。この文章は現在全文削除されているため見ることはできないが、東京新聞(21年4月13日付)が、DHCのホームページに掲載された吉田会長のコメントを報じた。

 それによれば、「NHKは幹部・アナウンサー・社員のほとんどがコリアン系」で、番組の出演者も、学者や芸能人、スポーツ選手の多くがコリアン系だという。

 吉田氏はさらに「ひどいことに偶然を装った街角インタビューさえコリアン系を選んでいる」とも書いている。それは名前や顔、「何よりも後頭部の絶壁ですぐに見分けが付く」のだと主張する。

 吉田氏の矛先はNHKだけではない。政治家も、自民党の一部のみならず、野党は「コリアン系だらけ」と断言。有名企業が名を連ねる経団連にも同じ視線を向ける。「ここ数十年の間に続々とコリアン系が増殖して、幹部や一般会員だけでなく、会を支える事務局員までコリアン系で占められるようになった」とし、自身はそうした状況に「呆れ果て」、すでに退会したという。

 さらに「コリアン系」だけでなく、中国への敵視もあらわだ。「コリアン系は長い歴史のなかで中国を常に宗主国としてきたから、宗主国のやることには逆らえないDNAができている」のだそうだ。そして「NHKは日本の敵です。不要です。つぶしましょう」と締めくくった。

DHC商品の不買運動が広がった韓国から撤退

 吉田氏は生まれ故郷の朝鮮をどうして、悪しざまにののしるのか、よくわからない。生まれ故郷には思い入れが強いのが普通だ。

 DHCの文章に、ツイッター上では「ヘイドスピーチだ」との批判が相次いだ。「#差別企業DHCの商品を買いません」などのハッシュタグを使った不買運動も広がり、自治体も同社との関係解消に動いた。取引先企業からも「不適切」として見解を求められる事態に発展した。

 DHCは21年9月、韓国市場から撤退した。DHCは2002年から韓国で事業を展開していたが、吉田会長による在日コリアンを差別する表現や嫌韓発言が韓国内で話題になり、消費者や小売店によるDHC製品の不買運動に発展していたからだ。

 国内では、DHCは故郷である佐賀県のサッカーJ1・サガン鳥栖のユニホームの胸スポンサーを20年1月に撤退した。J2時代の2008年から胸スポンサーだった。

 2022年7月期の売上高が2年前に比べて大きく落ち込んだのは、この不買運動の結果だ。創業者の吉田氏が、DHCの事業継続を断念したのは、「ヘイドスピーチ」問題が引き金になったことはいうまでもない。

 オリックスの広報担当者は「当社は人種などあらゆる差別を容認しないことを人権ポリシーと定めている。DHCが新経営体制のもと社会と協調し、持続可能な会社となるよう株主として支援する」というコメントを出した(朝日新聞22年11月12日付朝刊)。

 DHCをオリックスに売却して、吉田氏は巨万の富を手にする。その資金で、吉田氏は何をするつもりだろうか。ネット右翼の情報サイトを立ち上げるのか。吉田氏の動向には目が離せない。

(了)

【森村 和男】

(前)

関連記事