2024年11月23日( 土 )

【新幹線焼身自殺】年金12万円「下流老人」が普通になる(後)

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ie 厚生年金(老齢)をもらっていても、年金受給者の平均は、1人14万8,409円(2013年度末)。厚労省のモデル世帯(夫がサラリーマン平均月収36万円で40年間働き、妻がずっと専業主婦)で、夫婦あわせて年金は月約23万円だ。

 最後のセーフティネットである生活保護基準は、世帯や地域によるが、65歳単身世帯の場合、日常生活に必要な生活扶助が約6万~8万円、アパートなどの家賃に対する住宅特別扶助が東京都なら5万3,700円、福岡県なら3万2,000円が加算される。
 新幹線で焼身自殺した男性の場合、生活保護基準が約14万円とみられるので、生活保護以下の生活だったろう。
 この男性に限らず、厚生年金をもらっていても、かなりの人たちに、老後は生活保護以下の生活が待っている。

 しかも、生活保護には、住民税や上下水道料、NHK受信料などが免除され、医療扶助もあるので、年金生活よりもはるかに生活が安定する。
 もっとも、セーフティネットである生活保護は、個人の自由と尊厳にさまざまな制約があるので、お金だけでは測れない。必ずしも年金生活よりもいいとは限らない。
 生活保護は、経済的に困窮した者を一時的に救済し、やがて復帰していくという「最低生活の保障と自立の助長」という考えに立っている。ところが、老後は、そもそも定年後であり、「自立の助長」といっても、再び職業生活に復帰して自己の労働により収入を得ることを想定できない。
 年金生活者のかなりの部分が、生活保護以下で暮らしていること自体が異常だが、そのすべてを生活保護で救済することは制度設計上、無理がある。
 年金は、高齢によって働けなくなり収入が減った分を年金で補って、生活の安定を図るものだが、高齢者の生活保障の制度設計に歪みが生じている。そこには、給付が減るのに負担が増えてきたことにも一因がある。かつて自己負担が無料だった医療費に1割負担が導入され、介護保険料はスタートした2000年は月全国平均で月額2,911円だったのが5,514円。収入にかかわらず負担する消費税は最初の3%から8%になり、10%が想定されているのに、食料品など生活必需品への低税率・ゼロ税率は導入されていない。生活のベースとなる支出が増えすぎているのだ。

 年金生活者でも、国民年金月5万円の人もいる一方で年金生活者の男性の1割以上が年収500万円以上だ。「下流社会」が押し寄せているのと逆に、「年金天国」を謳歌している年金生活者もいる。年金生活者の会合で、元公務員が「今年の夏はドイツに行く」とか「イタリア旅行だ」と話している隣で、日帰り温泉旅行でさえ何年間も行っていない人が肩身の狭い思いで聞いているというのは、ありふれた光景だ。
 高齢者の誰でも無料に戻せとは言わないが、累進性を導入して、こういう高額所得年金生活者に応分の負担を求め、低年金者の負担をゼロに戻す対策もそろそろ検討するときにきた。現役人口が大幅に減少していき、現役世代の4割が非正規労働者の時代に、世代間扶養の制度は成り立たない。

(了)
【山本 弘之】

 
(前)

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