令計画氏逮捕へ!中国を読み解く1冊
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『習近平の中国』(宮本雄二著、新潮新書)
中国の胡錦濤前国家主席の側近だった令計画氏の逮捕が決定された。「反腐敗闘争」がなぜ取り組まれ、どこまで進むのかを見通すうえで不可欠な、中国を読み解く1冊が、元中国大使の宮本雄二氏による『習近平の中国』だ。「習近平をもっともよく知る大使」と呼ばれた宮本氏による分析レポートである。
習近平総書記(国家主席)の中国にとって、反腐敗闘争は「単なる、権力闘争を越えて、共産党の生き残りをかけた大改革、つまり『改革の全面的深化』を成功させるための準備作業でもある」と、本書は指摘する。
宮本氏は、今の中国を「巨大な象がチーターより速く走っている」と言う。
経済の急成長を遂げ、それが社会を大きく変え、その社会の変化が今度は政治の変化を求める。腐敗と不正、経済格差の拡大が覆い、環境問題は深刻…。あらゆる分野で深刻化した問題が、改革を求め、一刻も猶予できないところまで中国共産党を追い詰めている。
反腐敗闘争をやりすぎると中国共産党を割る可能性があるが、改革のために突き進まなければいけない。既得権益の抵抗も強いが、打ち勝たないといけない。負ければ自分が危険にさらされる。成功する保証はないが、失敗すれば中国共産党の統治そのものが怪しくなる。改革を徹底的にやらないと発展も安定もない。勝負をかけるしかなく、勝負に出た――。本書が描く習近平総書記の姿だ。「中国の変化に共産党の統治能力が追いつかなくなった時、共産党の統治は終わる」というのが、著者の仮説だ。
中国をよく知る著者が、一歩掘り下げてみた「等身大の中国」は、「中国共産党の一党支配」だけのイメージをくつがえし、中国共産党の統治能力の強靭さ、生き残りを賭けた大改革、習近平総書記の覚悟の大きさが伝わってくる。
習近平総書記とは、どういう人物か。退路を断って、大見えを切って、勝負に出る覚悟と能力、組織をたばねる度量と胆力、実行力(力技)を持つというのが、著者の宮本元大使の評価だ。中国共産党の統治が曲がり角に立ち、共産党の指導や中国共産党一党支配にも制度疲労が起きている。
だが、「これまで中国は、日本以上のスピードで自分を変え続けてきている」(本書)し、今まさに、「巨大な象」がチーターより速く走りながら、改革に突進し、中国そのものを変えようとしている。
しかも、語る「中国の夢」は壮大過ぎる。「1つの百年」で、中国共産党結党100年の2021年に「全面的な“小康社会”」(衣食が足りる状態は超えるが、十分に豊かな状態<富裕>にまでは至らない社会)を建設し、「もう1つの百年」で、建国100年の2049年に、「豊かで強い、民主的で、文明的で、調和のとれた“社会主義現代国家”」を建設するという。「もう1つの百年」の中身は手探り状態だが、確かなことは、習近平総書記がそれをやり遂げようと覚悟していることだ。
【山本 弘之】
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