白紙撤回の新国立競技場はどこへいく(前)
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7月、批判が噴出していた新国立競技場を取り巻く状況が一変した。安倍首相の鶴の一声で計画の見直しが決まったからだ。安保法制で落ち込んだ支持率復活という見解もあるが、とにもかくにも前途多難な再スタートを切ることになった。とはいえ、いまだ誰がどう責任をとるのか不明瞭なままだ。建築そして都市計画という2つの視点から、責任の所在について見ていきたい。
大きな問題は建築と都市計画
7月30日、新国立競技場の建設反対を訴え続けてきた市民団体の「神宮外苑と国立競技場を未来へ手わたす会」が「院内集会・第一次国会請願 みんなに開かれた真国立競技場に!!」という国会内集会を開いた。国会議員に対し、計画見直しの具体的な提言を記した請願書が提出された。
無駄撲滅プロジェクトチームを組み、新競技場の問題を取り上げてきた河野太郎衆院議員をはじめ、政治家らが列席。また、新設された内閣官房新国立競技場の整備計画再検討推進室参事官や、責任を問われている文部科学省のスポーツ・青少年局の担当者も出席した。政治家の1人が、「白紙撤回が決まったが、何を白紙にするのかは白紙だ」と述べたように、今後の行方はまだ定まっていない。
彼らに対し、これまで建設反対の声を上げ続けてきた建築家らが今回の問題点について改めて提言した。ここで話題に上がった「情報公開」への姿勢はたしかに問題だ。国立競技場の未来を決める第1回有識者会議という重要な会議は、なぜか非公開だった。3回目までその状態が続き、4回目からようやくメディアに公開されるようになった。その後の意思決定過程についても、何がどうなっているのかブラックボックスだ。
筆者もいくつか情報公開請求で世に出ていない資料を取得してきた。当サイトでも「神宮外苑地区都市計画の全貌」というシリーズで書いたこともあるが、まだまだ闇に埋もれた資料はあるはずだ。本当に反省し白紙撤回するのであれば、まずはこれらの精査から始めるべきだろう。
メディアの報道も遅きに失した感がある。まともに深堀し情報発信していたのは『東京新聞』くらいで、あとは半年から1年遅れで追いかけていたように感じる。もう少しジャーナリズムによる監視の目を強めていれば、ここまでデタラメな事業にはならなかったのではないか。さて、新国立競技場の建設に関しては、大きく2つの問題に集約される。1つは建築上の問題、もう1つは都市計画上の問題だ。
前者は、今やすっかり有名になった「キールアーチ」をはじめ、事業主体である独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)や有識者会議が絶対に譲れないとした「開閉式屋根」「8万人収容規模のスタンド」などだ。あらゆる方面からの要望がてんこ盛りになってしまい、結局は「無目的スタジアム」となってしまった。中心人物は森喜朗元首相と建築家の安藤忠雄氏、そして文科省だ。後者は、もともと高い建築物を建てられなかった神宮外苑という場所に、デザインコンペの後付けで都市計画を変更してしまったことに由来する。これを主導したのは東京都都市整備局とJSCだ。
本来は組織を一本化して2つの問題にあたるべきところを、2つの軸がバラバラにでき中心部分があいまいで見えなくなってしまった。これが「総無責任体制」と批判される根源と考えられる。そのため「私はここまでしか知らない」という有識者らの責任逃れの発言が噴出してしまった。この2つの問題について、次回からもう少し詳しく見ていきたい。
(つづく)
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