溶けて溶けてどこへ行くの? 我々には覚悟はあるか(9)~巨星堕ちる・ソロン田原学氏(11・終)
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まだ事業拡大意欲があり、不動産を買い込んでいた
2008年のリーマン・ショック前後には、故・田原氏は生気を取り戻していた。ソロンを内整理して、新事業をソロンコーポレーションが担うスキームが順調に滑り出したからである。田原氏の事業に対する熱意と見識・説得力には、銀行団も一目を置いて支援を継続した。未来への事業展望、田原氏にとってみれば未来への不動産事業展望が確固たるものになれば、元気になることは間違いない。
難病の発症時期に関しては、いろいろな説がある。証言を聞くなかで、一番信憑性があるのは、鹿児島県・指宿温泉ホテル説だ。田原氏の側近の1人が、この指宿温泉ホテルに呼びつけられた。「おーい、どうも足を滑らせてまた腰を痛めたようだ。早く病院へ行かないと」と、痛みをこらえていたことを鮮明に記憶しているそうだ。腰痛は、田原氏の長年の持病であることは承知していたが、「今回の状況はかなり悪いな」と直感したという。
ここでは何も、田原氏の温泉めぐりをレポートするのが目的ではない。この側近者は、指宿温泉に2泊しながら不動産視察に付き合った。一番印象に残っていたのは、鹿児島空港近くの高台での一件である。「あそこからここまで購入する段取りがついた」と自慢げに話していた光景には、感銘を受けた。「オヤジはやる気満々だな」と察知した。
この一件だけではない。指宿周辺でも仕込みを行っている様子であった。改めて、田原氏の凄まじい事業欲を知るにつけて感動した。入院するまでは、不動産事業の拡大構想を練っていたのだ。ゴルフ場も買い漁るつもりという証言あり
田原氏と切磋琢磨して事業競争を繰り返してきた同業者が振り返る。
(1)田原社長とは、平成初頭のバブル崩壊以降の付き合いである。業界であれだけの傑物をほかに見たことはない。(2)不動産事業への熱意と構想力には、兜を脱ぐ。(3)業界の悪しき体質=同業者の足の引っ張り合い・誹謗中傷という慣習を改善して、世間並みの業界へと改革した功績は、誰しもが認めるところだ。そして何よりも、大手デベロッパーと競い合って地元業者の新規売り出しシェアを65%以上確保した指導力は、卓越している。(4)銀行団への説得力には、大いに見習うことが大きい。(5)お手本となる先輩として尊敬しており、共同事業も行ったこともある。これらの評価を前提にして今回の取材を完了した翌朝、電話がかかってきた。「一晩、よーく考えてみた。田原社長が病魔に襲われずに健康であったらどうしていたであろうかと、自問した」と、開口一番に語る。
(1)たしかに、内整理する過程では気持ちは落ち込んでいた。しかし、事業再生の道が開かれた時点から、昔の田原さんに甦った。(2)そこから大型物件開発できる不動産を買い込むようになってきた。もし商品化できていれば、1,000戸を超えていたのではないか。(3)入院してからは物件処理の指示をしていたようであるが、入院を余儀なくされて田原社長の事業野望がすべて水泡に帰した。残念無念。私の知る限り、スケールの大きさでは断トツの経営者であった――と、まとめを整理し語ってくれた。
最後に、興味ある指摘があった。「田原社長の頭のなかには、もう1つ構想があった。『ゴルフ場のオリックス』になるということだ。再生ゴルフ場をドシドシ買い込む計画を漏らしていた」。自分がゴルフ場オーナーとして倒産させた特異な経験を生かして、今度はゴルフ場再生の担い手になるという構想の実現である。
別の側近者からも、「故人の頭には、ゴルフ場買い占めの野心があった」と同様の証言を得た。だが入院してしまったら、何事も実現不可能になってしまう。業界において今後、故・田原学氏を凌ぐような規格外の傑物は生まれないであろう。
(了)
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