すらごと~「2つの銀行」(前)
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(株)環境デザイン機構 代表取締役 佐藤 俊郎
もう20年ほど前の話、中年男女の「すらごと会」という異業種交流会があった。まだ、寛容な時代だったと思うが、博多港にかかる「かもめ橋」の舗道上で、テーブルまでしつらえた食事会を行いパトカーが駆けつけたこともあった(もう時効でしょうか…)。「すらごと」――つまり根拠のない、たわけたこと、といった意味の博多弁だと理解している。
福岡には、現代建築を代表する2つの建物が存在する。1つは博多駅の前にある磯崎新氏の設計による「福岡相互銀行本店」(竣工時。現・西日本シティ銀行本店)と、天神にある故・黒川紀章氏設計による「福岡銀行本店」(竣工時)である。ともに設計者が30~40歳代という若さで、デビュー作に近い傑作である。
西日本シティ銀行本店は、数年前の博多駅開業時に周辺開発にともなって解体、再開発されるのでは、という「噂」が流れた。
もともと、福岡相互銀行当時の頭取、故・四島司氏の思い入れでつくられた銀行は、関係者によると執務空間としては使いづらく、容積率もすべて使い切っているわけでもないという。銀行本店機能は大博通り沿いの本店で充分であり、解体の噂も信ぴょう性を帯びていた。時を同じくして、福岡県立美術館の将来をどのように位置づけるか、構想委員会なるものが発足して、美術館の将来像を模索していた。最近では、「大分県立美術館」(坂茂設計)や「長崎県立美術館」(隈研吾設計)、あるいは「佐賀県立美術館」改修など、「金沢21世紀美術館」の成功に触発されて、美術館が単に芸術家や美術愛好家のための施設ではなく、都市活性化の起爆剤としての意味合いを帯びて、次々と建設されている。
ただ福岡県の場合、仮に箱(建築)ができてもその中核となる展示物が、ほぼ皆無という問題がある。九州の首都を自称する福岡の場合、どのような県立美術館をつくるか、相当な知恵が必要であろう。ここで「すらごと」である。
もし、博多駅前のあまり機能していない銀行を福岡県が30年程度借り上げて「福岡県立現代美術館」として再利用されたらどうなるだろうか?
当然、技術的な問題は生ずる。しかしながら、更地に、下手をすれば数百億円単位で新築の美術館を建てるより、改修費用、借地借家料を払っても、十分に魅力ある現代美術館に生まれ変わることができると思われるのである。また、銀行内部には、福岡を代表するグラフィックデザイナー、西島功氏の作品や高松次郎氏の作品等が壁に取り付けられ、はぎ取れないアートが多数存在する。内部はまさに現代美術のギャラリーとしては申し分ない空間なのである。1階の銀行カウンター周りは、観光情報センターとして九州一円の情報を集約すれば、海外からの観光客を含め、利便性が極めて高い施設となり得るだろう。博多駅前であれば、福岡県一円からの交通アクセスは便利であり、また、県の施設が福岡か!といった批判にも応えることができる。
(つづく)
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