2024年11月25日( 月 )

【福岡市長選】高島氏4選で問われる福岡市の未来像

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 11月20日に投開票された福岡市長選挙は、無所属現職の高島宗一郎氏(48)が、新人の熊丸英治氏(53)、前市議で新人の田中慎介氏(44)=立民、国民、社民推薦を破り、4回目の当選をはたした。高島氏は、地元民放アナウンサー出身で、抜群の知名度をもつ。3期12年の実績と知名度を生かした高島氏が今回も幅広く支持を集め、過去最多となる32万9,606票を獲得した。

高島宗一郎氏    夕方から雨に見舞われた午後8時過ぎ、会場となった警固神社社務所には100名を超える支援者が詰めかけた。NHKの開票速報で高島氏の当選確実が報じられると、会場は、拍手に沸き、ほどなくして高島氏が、姿を見せた。アントニオ猪木氏のテーマソング「炎のファイター 〜INOKI BOM-BA-YE〜」が流れるなか、支援者と笑顔でグータッチを交わした。「これから託してくれる、市民の皆さんのために、そして福岡の未来のために、子どもたちのために、そしてこの福岡から全国に希望発信できるよう、全力で市政に取り組むことを誓います」と決意を語った高島氏の表情には、安堵感がうかがえた。

 今回の市長選は、前回2018年の選挙戦と様相が一変していた。会場には、かつて対立した自民党市議団の幹部も来場していたのである。

 高島氏のトップダウンの手法に、市議会最大会派・自民党市議団とは、ギクシャクした。17年、福岡空港の出資問題では、真っ向から衝突し、自民党と共産党が共闘する異例の事態に。議会は空転し、深夜にまでおよんだ。だが、新型コロナウイルス感染症対策を契機に、両者が歩み寄る機会が増え、現在は自民党市議団を含む主要4会派への根回しで円滑に進むようになった。

 高島氏は、当選後の挨拶において「コロナに関するリスクに対する考え方が人それぞれ違っているが、私は経済も動かしながらという考え方をもっていた」と語ったが、福岡市は、飲食店などサービス業を中心とした第3次産業事業所数の割合が9割を超えており、交流人口の回復は切実だ。

 今年7月の記者会見でも「新規感染者数が増えているが、多くの人が60歳以下で重症者はいない状況にある。これまで行動制限や私権の制限を行ってきたのは重症者が多くいたからだ。私権の制限は極力避けるべきだと思っている」との見解を示していた。

 選挙戦前半は、企業など組織への浸透に集中していたが、後半になると、各所で自民党市議が主催する街頭演説に立つようになった。投開票日前日の櫛田神社での街頭演説会は、町内会長や高島氏の秘書が地元住民を回って、参加案内を呼びかけるなど、「どぶ板選挙」を徹底した。

 この変化は、後ろ盾であった安倍元総理を失ったこととも関係があろう。

 高島氏の肝いりで進められている天神ビッグバンは、「アベノミクス」の一環として打ち出した「国家戦略特区」の規制緩和を活用したものだ。毎年1月には安倍晋三夫妻と、下関市の神社に一緒に参拝するほど近しかったが、安倍元総理が亡くなり、中央とのパイプは強いとはいえなくなった。ただ、立憲民主党の国会議員が応援演説に駆け付けるなど、野党共闘を前面に押し出した田中氏に対し、高島氏は前回の選挙では自民党本部の支持を得ての出馬だったが、今回は無所属で通した。相次ぐ閣僚の辞任や旧統一教会問題で支持率が低迷する岸田政権と距離を置いたかたちだ。

 選挙戦において、「福岡の未来へ種をまきたい」として、建替え工事が進む天神ビッグバンの成果や税収増で得た財源を活用しての公立夜間中学校の開設などを訴えたが、目玉政策と呼べるものは打ち出されず、具体性は乏しかった。

 都市の成長重視を掲げてきた高島氏だが、子育て支援や福祉といったソフト面には課題が多い。中心部の開発は進んでいるが、そのオフィス空室率は、家賃下落の目安とされる5%を超えている。新築したビルにどれだけの企業を誘致でき、雇用を創出できるか。現在は、九州各県などから集まってくるかたちで増えている人口も、65歳以上の高齢化率は福岡市においても上昇している。一方、生まれる子どもは少なく、35年には人口減少に移る見通し。市民の間からは「(開発が)中心部に偏重している」との批判も聞かれる。

 肝心の投票率は、今回も低迷した。福岡市選挙管理委員会によると、市長選告示翌7日から19日までの13日間で、16万8,211人が期日前投票を行った。これは有権者の約13%にあたり、前回18年市長選の期日前投票より52.7%増加した。大型商業施設での期日前投票も今回初めて実施され、投開票当日も、前回よりは増えるとの見方があったが、前回を2.89ポイント上回ったものの、投票率は、34.31%と伸び悩んだ。今回同様、与野党対決となった高島氏の初当選時、2010年市長選の43.67%には到底およばない。

 今回は、1972年に福岡市が政令市となって以来初めて、共産党を含めた非自民勢力が統一候補を推したことでも注目されたが、野党共闘の効果は、どれほどだっただろうか。

 田中氏は、立憲民主、国民民主、社民の各党、連合福岡から推薦を受け、共産党や市民連合からなる「福岡市から政治をかえる会」とも政策協定を結んだ。

 前回の市長選では、共産党の支援を受けた神谷貴行氏が、9万4,437票、今回、田中氏が、9万6,408票で、その差は、約2千票程度にとどまった。9万余りが反高島票というべきものなのだろう。田中氏は9月に出馬表明し、事務所を福岡市の中心部から離れた場所に間借りしており、準備不足が目立った。反高島票の受け皿としては、市民に浸透しきれなかった。

 今回、福岡市の有権者は、高島氏の市政継続を選択した。福岡市長を4期務めるのは、進藤一馬氏以来2人目だ。高島氏は「12年間進めてきたものが、一定の信任を得た」と語ったが、円安や物価高は、家計消費に影響を与え、市民の暮らしを揺さぶっている。

 市長選は終わった。「福岡の未来に種をまく」と訴えた4期目をどのように進めていくのか、その課題は大きい。

【近藤 将勝】

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