後継者育成が喫緊の課題 専門技能を次世代へつなぐ(前)
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(一社)福岡県技能士会連合会
代表理事・会長 黒木 一夫 氏ひとくちに「技能士」といえど、とび・土工、鉄筋、左官などといった建設業におけるもの以外にも、和裁、フラワー装飾など、各業界で脈々と受け継がれてきた卓越した技能の数々は誇るべきものだ。しかし、建設業を含めそのほとんどが現在、後継者の減少に悩まされている。この技能士の文化と技術を継承するために設立されたのが(一社)福岡県技能士会連合会だ。業界に立ちはだかる課題や活動内容について、代表理事・会長の黒木一夫氏に話をうかがった。
求められる新たな組織づくり
──(一社)福岡県技能士会連合会についてお聞かせください。
黒木一夫氏(以下、黒木) 技能士の資質、社会的地位の向上、産業経済の発展の力添えを目的として1982年8月に任意団体として福岡県技能士会連合会を設立しました。その後、86年には社団法人、2012年に(一社)福岡県技能士会連合会(以下、福技連)へと移行しました。各都道府県に連合会が存在し、上部団体として(一社)全国技能士会連合会(以下、全技連)があります。私は当連合会の設立時に初代会長として運営に携わり、現在も会長として活動しています。
当初は、技能士の育成について本腰を入れて取り組まなければならないと考え、行政や大学の教授などを交え勉強会を始めました。古くから建設業に限らず、さまざまな職種で技術・技能を継承する「徒弟制度」というものがありました。一般的には、一定期間親方の家に住み込み、雑用をしながら商工業の技術を見習う制度のことで、親方制度とも言われています。しかし、門戸開放政策や会社経営者の増加などから、産業社会の構造的な変化により徒弟制度が崩壊し、日本が誇る技能・技術の継承が危ぶまれる事態となりました。それを絶やすわけにはいきません。
そこで1979年に幅広い機動的な職業訓練の実施体制の確立のため設立されたのが福岡県職業能力開発協会です。技能検定をはじめ各種資格試験の実施や能力開発に関する情報提供など、人材育成や職業能力の向上、技能士の資格取得をサポートする団体が発足しました。ここで生まれた技能士が活躍できるようサポートするのが当連合会の役目になります。職業能力開発協会と連携し「車の両輪」というかたちで活動しています。
──福技連の会員の職種は多岐にわたります。
黒木 設立時の46団体から多少の増減を繰り返し、現在48団体が会員となっています。(一社)福岡県建設業協会や福岡県鉄筋事業協同組合、福岡県左官業組合連合会などの建設業団体や、(一社)日本和裁士会福岡県支部やフラワー装飾技能検定福岡県協議会、福岡県調理士連合会など、さまざまな業界に技能士は存在します。
また、技能検定の職種は、建設関係(造園、左官など)、金属加工関係(金属溶解、金属プレス加工など)、一般機械器具関係(機械検査、鉄道車両製造・整備など)、電気・精密機械器具関係(電子回路接続、半導体製品製造など)そのほか、食料品関係、衣服・繊維製品関係、木材・木製品・紙加工品関係、プラスティック製品関係、貴金属・装身具関係、印刷製本関係、フラワー装飾など、170職種を超えます。
技能向上に向け、さまざまなサポート
──福技連の主な事業・役割をお聞かせください。
黒木 福技連の主な事業は5つあります。1つ目は職業能力開発事業。技能向上訓練および委託訓練などを行っており、その一環としてガラス施工科の認定訓練を実施。そのほか、職業訓練も行っています。2つ目は福技連マイスター会事業。優れた技能や活動実績、20年以上の実務経験を有し、技能の継承に熱心であることから福技連の推薦を受け、研修を重ねた技能士を「マイスター」として全技連からの認定を受けることができます。全技連マイスター福岡県支部では福技連マイスター会を組織し、イベントの開催を行っています。
3つ目の全技連事業としては、全国の技能士が実力を競い合う「全国技能士大会」や「技能グランプリ」への会員の参加や開催の協力を行っています。4つ目は福岡県、福岡県職業能力開発協会との共催事業として、福岡県職業能力開発促進大会や技能フェスティバルなどを実施しています。5つ目は技能検定試験に関する書籍などの販売事業です。資格取得のために必要となる技能検定試験の実技・学科の過去試験問題集や解説集といった教材のほか、合格後に技能士としての証明が可能なカードや手帳などを販売しています。
──各種イベントはどのようなものになりますか。
黒木 福技連マイスター会が開催しているのが「匠の技フェア」です。このイベントの大きな目的は、技能継承や後継者育成。技能士の未来を担う子どもたちに、技能のすばらしさや大切さを実際に体験しながら学んでいただくイベントとなっています。過去のイベントでは和裁の古代衣装・十二単の展示や西洋料理の「氷の彫刻」として金魚の彫刻の実演、建築板金では「令和を螺鈿細工で実演」など、各業種において展示・実演が行われました。コロナ禍で20年から21年までの2年間は開催できませんでしたが、今年は11月14日から18日までの4日間、福岡県庁1階ロビー展示ホールにて福技連マイスター会所属の「現代の名工」やマイスターによる作品を展示しました。
また、「技能グランプリ」をはじめとした各種大会では、毎年福岡県から出場者を送り出しています。直近では、21年2月19日から22日にかけて愛知県で「第31回技能グランプリ」が開催され、全国から28職種344名が参加、福岡県からは7職種7名が参加しました。このグランプリは年齢制限が設けられておらず、まさに「真の日本一の職人」を決める大会となっています。この大会では井上博登氏がフラワー装飾で金賞、舌間正治氏が造園で銀賞、山田明人氏が染色補正で、寺井剛史氏がレストランサービスでそれぞれ銅賞を受賞。多くの技能士が優秀な成績を収めており非常に喜ばしいことです。
ほかにも、毎年開催されている技能五輪全国大会というのがあります。こちらは23歳以下の若手職人がそれぞれの職種で競い合い、2年に1回開催される世界大会の国内予選にもなっています。
(つづく)
【内山 義之】
<INFORMATION>
(一社)福岡県技能士会連合会
代 表:黒木一夫
所在地:福岡市東区千早5-3-1
(福岡人材開発センター内)
TEL:092-661-0714
URL:https://sites.google.com/view/fukugiren/
<プロフィール>
黒木 一夫(くろき・かずお)
1925年11月、宮崎県出身。42年12月に宮崎県立宮崎工業高校建築家卒業後、43年1月に(株)大林組に入社。入隊・除隊を経て、45年8月に大林組に復職。51年8月に(株)寿工務店を設立。同社代表取締役に就任した。75年4月から83年4月まで福岡県議会議員、82年6月から94年5月まで福岡建設業協会会長などの役職を歴任。その間、82年8月に前身となる福岡県技能士会連合会会長、法人化を経て2012年4月に(一社)移行にともない(一社)福岡県技能士会連合会・代表理事兼会長に就任し現在に至る。ほか福岡県職業能力開発協会理事などの要職も務める。関連キーワード
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