2024年12月23日( 月 )

「ふたつ星4047」の展望(前)

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運輸評論家 堀内 重人

JR九州に新たなD&Sトレインが誕生

 2022年9月23日に、西九州新幹線の武雄温泉~長崎間が部分開業したことを契機に、JR九州は新たな観光客の誘致や在来線の活性化を目的に、「ふたつ星4047」という新たなD&S(デザイン&ストーリー)トレインを導入した。

 D&Sトレインであることから、今日の新幹線や在来線の特急列車では姿を消しつつある車内販売だけでなく、供食サービスを提供している。

 「ふたつ星4047 」は、主に土日・祝日を中心に運転する臨時の特急列車である。JR九州は会社発足以来、各線区の魅力度を向上させるため、初期のころはジョイフルトレインを導入したり、新型の特急電車を導入したりした。そして2000年代に入ったころからは、D&Sトレインを導入するようになった。

「ふたつ星4047」のコンセプト

 「ふたつ星4047」の概要は、2021年10月27日に発表されたが、この列車のコンセプトは、「西九州の海めぐり列車」である。列車名は、「佐賀県・長崎県という九州の観光における“2つの星”」、そして「キハ40、47形の車両」にちなんで命名された(写真1)。

(写真1) 9月23日に運行開始したふたつ星4047
(写真1)
9月23日に運行開始したふたつ星4047

    佐賀県・長崎県という西九州エリアは、有明海や大村湾などの美しい海に面しており、車窓が魅力的な地域である。西九州新幹線の開業を契機に、「ふたつ星4047」という新たなD&Sトレインを導入し、西九州エリアの魅力を多くの方々に感じていただくことや、大村線および特急「かもめ」が廃止された長崎本線の江北~長崎間の活性化を目的に、JR九州が導入した。

 JR九州は、往路が西九州新幹線であれば、復路は「ふたつ星4047」や、その逆のパターンも含め、「ふたつ星4047」と西九州新幹線を組み合わせて利用してほしいと思っている。

(写真2) シックな木目調のデザインが美しい客車
(写真2)
シックな木目調のデザインが美しい客車

    車両は、キハ47・キハ140・キハ147気動車の3両編成である。観光用の特急列車であることから、全車が座席指定席となる(写真2)。中ほどの2号車は、1両を供食用のビュッフェ・ラウンジ車(写真3)とするため、この車両は定員外の車両となった。その結果、1編成あたりの定員は80名程度になってしまう。1編成あたりの定員が80名ということは、貸切バス2~3台程度であり、観光列車などでは妥当な定員といえる。

(写真3) ビュッフェ・ラウンジ車両は木製の格子があしらわれたデザイン
(写真3)
ビュッフェ・ラウンジ車両は
木製の格子があしらわれたデザイン

 D&Sトレインであることから、車掌は乗務しないがアテンダントが乗務している。「ふたつ星4047」は、座席指定の特急であるから、検札を行う必要がなく、指定された座席と違う座席に座っていた際は確認を行う。扉の開閉は、運転士が行うことから、アテンダントの業務は、主にビュッフェ・ラウンジ車で、沿線の素材を生かした軽食やスイーツ、地酒なども提供や、車窓案内などである。

 代表的な物として、長崎スフレや「アイスソルベ」「2つ星うれしの茶」など、地元の企業や業者と提携して、地元産の素材を生かしたメニューが提供されており、「地産地消」が実現する列車であるといえる。

 それ以外には、午前中の列車のみになるが、武雄温泉駅にある「カイロ堂」が手がけた、「ふたつ星4047」オリジナル弁当が、事前予約というかたちで提供されている。1つ目は、二段重の「特製2つ星弁当」。中身は、有明海は海苔の養殖が盛んであることから有明海の海苔と、ブランド牛でもある佐賀牛を大量に使用した贅沢な二段重の弁当である。
 もう1つは、のり弁当の上に、すき焼き風に味付けされた佐賀牛を載せた「4047弁当」である。事前予約は、ウェブサイトから行うことになる。

 ビュッフェ・ラウンジ車では、交通系電子マネーによる決済が可能となっている。

運行ダイヤ

 「ふたつ星4047」は、土日・祝日を中心に武雄温泉~長崎間を1日に1往復運転するが、午前と午後とではルートが異なる。

 午前のダイヤは、武雄温泉を発車して、江北(旧・肥前山口)へ向かう。ここで進行方向を変え、長崎本線を走行して諫早へ向かう。諫早からは、長崎トンネル経由の新線ではなく、「ななつ星in九州」と同様に、長与を経由する旧線を走行して、長崎へ到着する。

 午後のダイヤは、長崎から大村線を経由して武雄温泉へ向かうことになるが、長崎から諫早までは、午前ダイヤと同様に長与経由の旧線を運転する。

 旧線は、急勾配や急カーブがあるため、長崎トンネル経由の新線のように高速運転はできないが、海の傍を走行するため、「車窓」という視点で見れば魅力的である。それゆえ長崎本線の旧線の活性化にも貢献するといえる。

 午前のダイヤでは、有明海を眺めながらの旅行となり、午後のダイヤでは大村湾を眺めながらの旅行となる。午前の列車と午後の列車とでは、まったく別の列車になるため、乗車するには、それぞれの指定席特急券が必要となる。武雄温泉を起点に、江北(旧・肥前山口)や長崎へ到着し、午後は長崎から大村を経由して、武雄温泉へ戻るかたちで1周する運転である。

 ただし運賃は、乗車距離で計算される。往路の武雄温泉から江北を経由して長崎へ行く場合は、片道の普通運賃は1,850円であるが、復路の長崎から大村線を経由して武雄温泉へ行く場合は、距離が長くなる分、片道の普通運賃も2,170円と、幾分、割高になる。

 武雄温泉から長崎間も、長崎から早岐経由の武雄温泉間も、片道の所要時間は3時間程度である。表定速度でいえば、35~36km/h程度であり、特急といえる運転速度ではなく、急行であったとしても、「遅い」と言わざるを得ない。

 西九州新幹線が開業する以前に運転されていた長崎本線の特急「かもめ」は、博多~長崎間の所要時間が片道1時間50分程度であったが、「ふたつ星4047」は運転される距離がはるかに短いにも関わらず、所要時間は特急「かもめ」時代よりも、1時間以上も要してしまう。
 これは「ふたつ星4047」が臨時列車であることから、長与経由の江北~長崎間は単線区間であり、定期列車のダイヤが優先されること、行き違いの運転停車、急勾配や急カーブが多く、高速運転ができないなどの制約がある。

 それ以外に、午前発の列車は江北、肥前浜、午後の列車は千(ち)綿(わた)(写真4)などのおもてなし駅に立ち寄り、そこで15分程度停車することが挙げられる。そこでは地元の方々の歓迎を受けているほか、物販なども実施されるなど、「速達性」を主目的にした列車ではなく、「観光」を主目的にしている点も、影響している。さらに「ふたつ星4047」は、国鉄時代に製造された古い気動車が種車であり、エンジンを交換して強馬力化が図られているが、最高速度が95km/hしか出せないことに加え、加速性能が悪いことが要因である。

(写真4) 『おもてなし駅』千綿に停車
(写真4)
『おもてなし駅』千綿に停車

(つづく)

(後)

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