2024年11月16日( 土 )

「観光都市・北九州」の確立へ 多様な交流を通じた都市のアップデート(前)

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(株)HOA 代表取締役 岡 秀樹 氏

 2014年に北九州市小倉駅から徒歩3分の繁華街にオープンしたコワーキングスペース「秘密基地」。そこで生まれた多様な交流や多くの事業は、北九州市の地方創生に大きく貢献している。発起人である(株)HOAの代表取締役・岡秀樹氏に、コワーキングスペースを運営することとなった経緯や北九州市の魅力、また将来展望などについて話を聞いた。

多くの知見が集まる交流の場を提供

(株)HOA 代表取締役 岡 秀樹 氏
(株)HOA
代表取締役 岡 秀樹 氏

    ──設立のきっかけを教えてください。

 岡秀樹氏(以下、岡) (株)HOAはコワーキング事業をメインに立ち上げた会社になります。コワーキング事業のきっかけは、イギリスへ留学していた際に居住していたシェアハウスでの体験からです。私の専門は建築設計の分野だったのですが、ほかにはマーケティング、哲学、グラフィックデザイナーなど、さまざまな分野の知識をもった多国籍の人々が同じシェアハウスで生活していました。毎日のように集い、ワインを飲みながら誰かが持参した学校の課題などについて意見を交わし合うのです。

 専門の違う各々がまったく違う観点から意見を出し合うため、自分1人では想像できないような考えもあり、非常にクリエイティブな空間であったと思います。このような経験から、さまざまな人が集い新しい何かが生まれてくるような場をつくりたいと考え、2014年にコワーキングスペース「秘密基地」(北九州市小倉北区)を開業しました。

 コワーキングスペースにはビジネスシーンでよく使用されるような個室のものもあるのですが、秘密基地は「多くの人」ではなく「多くの知見」を集めることを目的としていますので、仕切りのない交流の場を広めにつくっています。また、定期的に講演会を行うことで、同じテーマに興味をもつ人々が深く交流したり、新しい事業が生まれたりもしています。

 ──新しい事業を推進するにあたって、貴社が大切にしていることはありますか。

 岡 何か新しいことを始めるときに必要なものは「多様性」だと私は考えています。それぞれ違う知見があるからこそ、革新的な面白いアイデアを生み出せるのです。現に、建築設計専門であった私が、秘密基地で出会った仲間たちと会社を立ち上げ、観光事業へと発展しているのですから。その過程で私が大切だと思うことは、年功序列の上下関係による発言しにくい雰囲気や遠慮をなくし、互いがフラットで率直な意見をいえる関係を築くことです。そのために、「個の尊重」が重要になると考えています。

 私が4年間留学していた当時EU加盟国だったイギリスでは移民労働者が多かったため、文化や習慣の違うさまざまな国籍の方たちと関わってきました。そこはタテ社会の人間関係はなく、どの世代も平等な関係が築かれていました。私が秘密基地でつくり上げていきたいのは、このイギリスの社会構造のような空間です。

 年齢や地位を理由に発言を遠慮するような場面ではイノベーションは生まれませんし、それは企業にとって大きな機会損失であると思います。個の尊重は、それぞれが相手との違いを理解していくことで生まれます。そうして認め合えた違いが1つになることで初めて、多様性を価値へ変換することができるようになると考えています。

コワーキングスペース秘密基地
コワーキングスペース秘密基地

北九州市のブランディング 工業都市から観光都市へ

 ──北九州市の魅力を教えてください。 

 岡 北九州市は海に囲まれた九州の玄関口であり、本州へのアクセスにも優れた観光のハブとして高いポテンシャルをもっています。工業都市としてのイメージが定着していると思いますが、これから観光都市としての立ち位置を徐々に確立させていけたらと思います。

 北九州市は小倉城や門司など、さまざまな観光名所もさることながら、関門海峡の渡船、船釣り、グランピングなどのアウトドアアクティビティも豊富ですし、関門海峡で獲れる海鮮も有名なグルメの宝庫でもあります。今年3月には、「日本新三大夜景都市」として北九州市が全国1位を獲得しました。皿倉山をはじめとして、小倉イルミネーション、戸畑祇園大山笠、若戸大橋など、多くのスポットが美しくライトアップされており、これから夜景観光都市としても飛躍していくのではないかと期待しています。

 また、JR6社と地元の官民が連携して行う日本最大級の観光キャンペーン「ディスティネーションキャンペーン」(24年4月から6月の3カ月間)の開催地に、福岡県と大分県が採択されました。このチャンスを生かし、全国からの観光客を小倉駅にも呼び込めるようなイベントを考えているところです。

小倉城
小倉城

    ──グループの1つである(一社)まちはチームだは、今年2月に小倉城をはじめとした指定管理者に決定されています。

 岡 まちはチームだは、まさに前述の秘密基地で生まれた組織です。もともと建築分野で北九州市の地方創生に関わっていたことから、14年には第一回「北九州フードフェスティバル」開催、また国家戦略特区として「エリアマネジメントの民間開放によるまちの賑わいの創出」を目的に道路占用の規制緩和に向けての事業(16年4月認定)の展開など、さまざまな北九州市の活性化に係る事業に携わってきました。このような活動が奏功し、年間約55万人の集客を成功させることができました。

 その後、市から公共施設の指定管理者を決めるコンペへのお声がけがあり、参加した結果、主幹となったことで現在は小倉城、小倉城庭園、勝山公園、あさの汐風公園など、小倉駅付近の公共施設の管理運営を市から任せていただいています。 

 ──指定管理者にはどのような利点があるのですか。

 岡 管理者は、管轄内で自由に貸し切りのイベントなどを企画できるメリットがあります。たとえば音楽フェスを開催したり、ギャラリーを開いたりなどですね。前述のイベントと併せて飲食店などを出店するなど、活用法は多くあるので企画の幅もとても広がりました。 

 最近は徐々に観光客の姿が戻ってきました。コロナ禍前の19年度における小倉城の年間入場者数は約23万人でした。来年からはインバウンド需要も戻ってくることが予想されますので、まずはコロナ前の水準に戻すことを目標にしています。

(つづく)

【立野 夏海】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:岡 秀樹
所在地:北九州市小倉北区京町2-2-19
設 立:2016年7月
URL:https://hoa.co.jp


<プロフィール>
岡 秀樹
(おか・ひでき)
1976年生まれ、北九州市出身。学生時代ロンドンにおいてシェアリングビジネスで起業する。2014年、コワーキングスペース秘密基地を設立。65社を創業させ、新規事業開発をサポート。北九州市公式SNSのコンサルティング、小倉城のマーケティング戦略を担当。北九州地域DMO候補法人(Destination Marketing Organization)となる。企業の規模にかかわらず、デジタルマーケティング活用方法を指南。講演・コンサルティングを行っている。(株)HOA 代表取締役/(株)BIRDS 代表取締役/(一社)まちはチームだ代表理事。

(後)

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