2024年11月24日( 日 )

【BIS論壇No.398】ユーラシア大陸と一帯一路

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 NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
 今回は12月18日の記事を紹介する。

カザフスタン イメージ    12月15日、一般社団法人ロシアNIS貿易会主催の中央アジアの有力国「カザフスタンを読み解く3つの視点~政治・経済・石油~」と題する産業協力・企業間交流セミナーが開催されたので参加した。コロナ禍もあり、会議参加は3年ぶりであった。さすがにZOOMやオンラインでの講演会と違い、迫力ある講演で、人と人が接するリアルの会議は印象的で得るところ大だった。

 余談ながら、会場で名刺交換した方が筆者と同郷の薩摩武家の名門、有村家の後裔で幕末に桜田門で井伊大老を襲撃した有村家の子孫だということで話が弾んだ。これもリアル会議の余得だ。筆者は愛知学院大学、東京経済大学で国際マーケティング、国際物流、貿易論を担当、研究。1990年時代後半から中央アジアのSCO(上海協力機構)の研究を30年近く継続。BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)と合わせ、中央アジアを中心とするユーラシアの物流、とくに中国習政権が2013年来10年近く注力する「一帯一路」がユーラシアに於ける世界最大の国際物流・貿易圏に発展すると判断し、研究を深めている。

 カザフスタンの政治経済専門家3人の講演は(1)「新しい地政学的条件に対応するカザフスタンの石油・ガス戦略の行方」、(2)「カザフスタン経済~乱気流に見舞われた2022年と2023年の展望」、(3)「ウクライナでの戦争:ガザフスタンの地勢学リスク、課題。そして可能性」について極めて有益な示唆を与えられた。

 印象的だったのはユーラシアにおいてウズベキスタンとともに影響力を有するカザフスタンを中心とする中央アジアが今般のウクライナ戦争で、ロシアの戦力の実情より、これまでのロシアの石油、ガスを中心とするエネルギー戦略から距離を置き始めていることを痛感した。これはこれまで、ロシアが中国とともに推進してきた、SCO(上海協力機構=その後、インド、パキスタン、本年イランも加盟)へのロシアの影響力が衰えつつあるとの感触をもった。さらにロシアがユーラシアにおいて結成したEEU(ユーラシア経済連合)への影響力も減殺されるのではとの疑念をもった。

 これはロシアの中央アジアにおける影響力の後退を意味し、経済的には韓国より下位にあるロシアとしては、ウクライナ紛争の早期和平に努力しなければ、ロシアの中央アジア、ユーラシアに於ける影響力がますます低下するのではないかと痛感した。

 英国の地理学者、マッキンダーの唱えたハートランド理論によると21世紀の世界発展の軸となるユーラシア、アフロ・アジアでの中国の「一帯一路」広域経済圏構想はユーラシアの陸と海と空の三方からの国際物流網構築により、ユーラシアを通じ、世界の経済発展に大きく貢献することは間違いないと思われる。日本は今こそ「一帯一路」へ参画することにより日本の衰退に歯止めをかける時である。直ちに行動を開始すべきであろう。


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)

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