【筑紫野市長選】新市長誕生で市の未来像をいかに描くか
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1月22日に投開票された筑紫野市長選挙は、無所属新人で元福岡県議会議員の平井一三氏(68)が、現職の藤田陽三氏(80、自民、公明、国民民主推薦)と無所属新人で元市議の浜武振一氏(57)を破り初めての当選をはたした。平井氏は、原田義昭元環境大臣や楠田大蔵太宰府市長、阿部弘樹衆議院議員(日本維新の会)、自治労筑紫総支部などの支援を受け、党派を超えた支持を集め、1万7,908票を獲得した。一方で投票率は12年前の45.03%を大きく下回る38.43%であった。
冷たい雨が降るなか、会場となった筑紫野市針摺公民館には、午後9時ごろからぞくぞくと支援者が詰めかけた。筑紫野市民の支援者だけでなく、楠田大蔵太宰府市長、岳康宏福岡県議会議員、遠く柳川市や福津市の市議会議員も駆けつけた。そこかしこで名刺交換やよもやま話が始まり、勝利を予感させるムードを醸し出していた。地元民放のRKB毎日放送の記者がカメラマンをともなって到着し、正面にカメラを設置。NHKや支局を置く新聞各紙の記者もスタンバイし、開票を待つばかりとなった。ほどなくして平井氏も姿を見せた。午後10時の1回目の投票結果速報では、藤田氏と平井氏が共に1,000票で並び、浜武氏は600票であった。午後11時の3回目の速報で、平井氏が1万6,600票、藤田氏が9,000票と平井氏の優勢が伝わるや会場は沸いた。
平井氏は市長として3つの柱に取り組むことを強調した。
(1)子どもが大切であり、人材育成に取り組む
(2)スポーツの市・筑紫野をつくる
(3)環境を市政の根幹にすえたまちづくりをしていく現市政は、いずれも不十分であり「新しい考え方、やり方を今スタートしないとほかの自治体に遅れてしまう」と危機感を表明し、「市民全員でチームとなり筑紫野市の明日をつくっていきたい」と決意を述べた。
筑紫野市長選は、2011年以来で、無投票であった15年、19年とも構図が変わっていた。平井、藤田両氏の支援をめぐって、筑紫野市支部が、平井氏を、県連が藤田氏をそれぞれ推薦。筑紫野市議会の自民党系会派「つくし野」の議員の大半は、代表の横尾秋洋市議はじめ現職の藤田氏支援に回った。11年の市長選に際して、藤田氏に市長選出馬を要請したのは横尾市議であった。唯一、同会派のなかで、平嶋正一市議が、ポスティングや支援者の引き回しなどの活動に取り組んだ。立憲民主党も自主投票となり、原竹岩海県議は藤田氏の出陣式にも出席し、現職支持を明らかにした。
一方、段下季一郎市議は、自身のツイッターにおいて「私は、今回は、福祉や教育を最重点政策としており、連合福岡筑紫・朝倉地協推薦の『平井一三』候補を個人として支持します。筑紫野市を変えるのはあなたです。」と投稿するなどSNSや街頭において、現市政批判を展開した。筑紫野市職員労働組合も構成団体である自治労筑紫総支部は、平井氏の支援を行うなど、政党や支持団体も対応が分かれた。現職の藤田氏には、自民、公明、国民民主の3つの政党が推薦。農政連や医師連盟など200を超える団体が推薦し、組織選挙を行い、国や県との強固な関係を強調した。
藤田氏は3期12年におけるJR二日市駅西口設置や、市役所新庁舎移転などのインフラ整備の実績を訴えたが、全国一高齢の市長であり、子育て支援や教育に対する取り組みを不十分とみなす市民の支持が得られなかった。
今回、筑紫野市の有権者は、平井氏による市政刷新を選択した。市長選は終わった。「51年目からの筑紫野市の歴史をつくっていきたい。考えたことや思ったことを市民も市役所の内部でもいえるようにしたい」と語ったが、具体的にどのように進めていくのか、その手腕が問われる。
それにしても投票率の低さには、唖然とさせられた。筑紫野市選挙管理委員会によると、市長選告示翌16日から21日までの5日間で、1万100人が期日前投票を行った。これは、11年の市長選の5,583人の2倍にあたる。本来なら、投票率も前回を上回るはずだが、今回の投票率が38.43%と4割を切った背景には、保守分裂選挙となり、さらに国政野党も割れた影響を指摘せざるを得ない。
昨年の衆院選で、争った立憲民主党の堤かなめ議員は今回、平井氏の支援を行っている。平井氏は、原田元環境大臣の応援をしており、自民党と立憲では考え方は大きく違う。本来、自前の候補を擁立すべきである。これは同党所属議員の段下市議もツイッターで書いていたことである。しかし実際には、世代交代を訴えた平井氏に相乗りするかたちで、堤議員やその支持団体である連合福岡筑紫・朝倉地域協議会や自治労筑紫総支部が支援したことで一般市民から見てもわかりづらい面があった。知事選などでもみられる与野党相乗りの構図に有権者は飽きている。平井氏が掲げた政策が、教育や福祉を重視するリベラルな価値観につながるとはいえ、同じく連合の支援を受ける国民民主党は、藤田氏を推薦し、大田京子県連代表が藤田氏の出陣式に出席し、対応がわかれた。
地方選挙が政争の延長とみなされ、わざわざ投票に行く必要がないと気持ちが萎えるのは否定できない。自分たちの生活、足元の暮らしに直結するリーダーを決める市長選でさえ、4割にも届かない投票率しかないという現実に「市民とは一体何なのか」とため息が出た。
【近藤 将勝】
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