2024年11月05日( 火 )

SCの経年陳腐化とリニューアル~キャナル・イースト解体によせて(後)

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SCはバランスが壊れるとき楽しさも消える

 業態の陳腐化の1つに、バランスの崩壊がある。時代・業態・照明の明暗・空間のバランス、その他にも大小・業種・広狭・カラーバランスなどがある。これらがうまくミックスされてはじめて、お客にとって快適な空間が生まれる。SCの建設にはこれらが周到に検討され、実行に移される。だが、SCの完成後は時間の経過が施設を陳腐化させ続ける。それを低コストで解決する手段は存在しない。

 陳腐化の根本的な解消策は、ゼロからの出直しだけだ。もちろん、ゼロからの出直しにはその投資に見合った回収が求められる。立地飽和の現在でそれがかなう物件は少ない。モノ余り、高齢化、人口減といった小売市場の環境も、従来型のSCには逆風だ。

 今や人もモノもグローバルだ。キャナルシティなどの大型SC には異国の言葉が飛び交い、売り場にはアメリカやヨーロッパのアパレルブランドが並ぶ。かつての異空間もいまや日常だ。かつてのSCがお客に提供した新鮮さと感動に溢れた空間はない。

キャナルシティ博多 イメージ    そんな中、時代は「モノからコト、そして時間」消費の時代に移ったといわれる。SCのなかには、小売テナント部分をキッザニアなどコト消費といわれる非小売のテナントに転換して生き残りを図るところも出始めている。時間消費とは、日常の暮らしの一部を好みの空間で過ごせる施設ということだろう。だが、コト消費の先には市場規模とリピート率の確保、時間消費にはそれを楽しむ利用者の経済的余裕やリピート率の確保という難問も横たわる。それをすべて解決するのは容易ではない。

 高度成長とバブル崩壊を経て、九州各地のSCの中心はイオングループがその大半を占める。だが、ほぼ独占的なSCシェアをもつはずの同グループも、SCのアンカーである直営小売は極めて厳しい。売り場面積当たりの売上低下に歯止めがかからないからだ。従来型の弥縫策を続ける限り、その改善は期待できない。かつて、フリースタンドからSCのキーテナントになったシアーズなどの米大型小売業も、同じ構図に直面し、その後姿を消した。イオンリテールは、SCとのグループ企業だから生き残っているといっても過言ではない。しかし、このまま業態改善ができないなら、その切り離しや売却を物言う株主から要求されるのだろう。

メガシティーと地域間競争

 地方都市は少子高齢化が顕著に進行している。高齢者は若者に比べるとモノを買わないのが普通だ。さらに65歳以上の高齢者は、車の免許返納など移動手段を失い、買い物に出かける頻度も減少する。端的に言って、需要の伸びが期待できないのだ。モノが売れないとなるとテナントは撤退するしかない。代わりに入るテナントからは退店したテナントを上回る賃料を得ることは容易ではない。とくにアパレルテナントから情報通信やサービス系のテナントに代わると、賃料は低くならざるを得ない。それらの環境を考えると、少なくないSCが近い将来にはアメリカ的な破綻の時代を迎えるのではないだろうか。

 そんななかで今注目されるのが、福岡市中心部の商業施設の今後だ。イオン九州は開店から40年を経過した旧ダイエーショッパーズを、隣接する中央郵便局と合同で高層ビルに建替え、新しい商業施設をつくる計画を発表した。今のところ具体的な内容は公表していないが、地権者を含めて地域の将来像も見据えて検討中だという。似たような再開発は博多・天神地区に少なくないが、これはエリア競合の激化だけでなく、近隣県を巻き込む商圏戦争にもつながる。高速鉄道と高速道路利用を考えると、百キロ先からの集客も現実になる。そしていま、そのインフラはほぼ出来上がっているのだ。天神ビッグバンは博多・天神商戦のような過酷な地域競争に、さらに佐賀、熊本、長崎、山口といった近隣県を巻き込んだ集客競争を拡大させるはずだ。

 コト、モノ、時、オンライン、環境など複雑な要素が絡み合うなか、多くのSCは試行錯誤しながらこれからの容易ならざる道を歩むのだろう。

(了)

【神戸 彲】

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