米国経済の好都合すぎる真実(謎)と基本矛盾(1)真実か偽りか?(後)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は2月14日号の「米国経済を覆う『好都合すぎる真実』、偽りなのか?」を紹介する。(2)金融市場の謎
引き締め下の資金余剰、グリーンスパンの謎の再現
金融市場での謎はグローバルに潤沢な投資資金、流動性の存在である。歴史的利上げにもかかわらず潤沢な投資資金が新興国株式や米国の低格付けクレジット市場に流れ、リスクプレミアムは低下し始めている。何より4.5%まで短期金利が引き上げられたにもかかわらず、米国10年債利回りは3.5~3.7%前後まで低下している。これはCPIや名目経済成長率の半分であり、依然として緩和的水準にあるといもえる。金融引き締めの効果を金余りがしり抜けにさせているともいえるのだ。
シカゴ連銀が計算している全米金融環境指数(National Financial Condition Index) は昨年4Q以降、大きく改善されてきている。まさにグリーンスパン元FRB議長が謎(conundrum)といった事態が再現されているかのようである。
この長期金利の低下を先行きの景気不安の予兆とする見方もあるが、よりリスクの高い新興国株式やジャンク債の値上がり、さらには米国銀行貸し出し増加や、世界景気との連動性が高い銅市況の上昇などと辻褄が合わない。
資本生産性の上昇による企業部門における貯蓄余剰
1980年以降長期金利の低下が景気悪化の前兆ではなかったように、今の長期金利の低下も別の要因によるものである可能性が考えられる。それは何かといえば、企業部門の生み出す価値が企業部門が必要とする投資より大きく、恒常的資金余剰が起こっていると考えられるのではないか。その背景には資本生産性の恒常的上昇がある。設備、機械、知的資産などの価格が大きく低下し、設備などの再取得価格が低下し、必要な投資額が減少するということが起きている。
またGAFAMではリストラが進行しているが、そこではAI、ロボットによる労働力代替が起きており、大きな生産性上昇ゲインが、企業部門の金余りを引き起こしている可能性がある。米国企業の大幅なフリーキャッシュフローの存在は、企業部門に潤沢な資金余剰が存在していることを示している。企業はその余剰資金の大半を自社株買いとして市場に還元している。
(3)謎の解明と展望
デフレリスクに対する警戒が強まっていくだろう
仮にNAIRUが低下しているとすれば、米国労働市場に余剰(slack)が存在しており、FRBの性急な利上げは再びデフレのリスクを高めることになる。また恒常的資金余剰の下で長短金利の逆転を放置すれば、金融機関経営をいたずらに痛め、無用の金融ストレスの高まりを引き起こし、やはりデフレのリスクを強めることになる。
つまり、ここからのリスクはインフレではなく景気後退とデフレである、ということになるが、米国市場も米国当局もその点での暗黙のコンセンサスが形成されているようである。パウエル議長発言は微妙に変化し、ディスインフレを指摘しつつ年内利下げの可能性を完全には排除しなかった。
雇用が遅行指標でない可能性
すでに好循環が起き始めた可能性もある。製造業PMIが下落する一方で、サービス業PMIはリバウンドに転じている。とくにサービス産業での新規受注が好調であり、それは好調な労働市場と消費によって支えられている。だとすれば雇用は遅行指標ではなく先行指標ということになり、ここでも常識破りの事態となる。金融引き締めの下でもマンハッタンの家賃上昇が続いていると伝えられるが、それも労働市場の強さに支えられているとの報道がなされている。
以上の投資へのインプリケーションは、結局ゴールディロックス相場の再現の可能性が高まり、資産価格上昇も正当化される、というものだろう。政策当局の意志の見極めが大事である。デフレのリスクをより重視する、高圧経済論者であるイエレン財務長官の再任の意味は大きい。
米国経済がソフトランディングし、株式市場が強気市場入りをしているとすれば、それは米国資本主義経済がより深化deepeningしているから、という仮説が成り立つ。少なくともAIネット革命、イノベーションと米国の労働・資本市場の一段の効率化が米国経済の強靭性resilienceを強めているといえそうである。
(了)
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