2024年11月22日( 金 )

大手電力の赤字見込みと値上げラッシュ(前)

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大手電力9社、通期で赤字見込み。カルテルの課徴金も含む

 電気事業連合会を構成する大手電力10社は、2023年3月期第3四半期の決算に際してこれまで公表を控えてきた通期の見通しを示した。それによると中部電力のみが黒字で、他9社はいずれも大幅な赤字見通しである(【図1】)。

【図1】各電力会社の連結業績比較

 もっとも予想赤字額が大きい東京電力HDについては、今月に入って、三井住友銀行、みずほ銀行が総額4,000億円規模の緊急融資を行うとの報道が出ている。

 東北電力は昨年12月に、みずほ銀行と日本政策投資銀行をアレンジャーとする借入総額3,500億円のシンジケートローン契約(29年12月返済期限)を結んだと発表している。

 中国電力は昨年9月、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた投資と財務基盤の強化のため、日本政策投資銀行およびみずほ銀行をアレンジャーとした総額1,000億円の資金調達を発表していた。

 中部電力は23年3月期第3四半期としては、経常損益278億7,600万円の赤字、当期純損益374億6,300万円の赤字を発表した。23年3月期の通期についても、昨年10月予想時には、経常損益で1,700億円の赤字を見込んでいたものの、燃料価格や卸電力価格の下落による期ずれ差損の縮小などにより、一転して黒字の見通しとなった。

 昨年12月に九州電力を含む4社のカルテル問題を報じたが、(「九電など電力3社、カルテルで課徴金1,000億円」)、課徴金となる中国電力の約707億円、中部電力の約275億円、九州電力の約27億円について、各社は23年3月期で特別損失に計上する。もう1社、カルテルに加わった(というより音頭をとったとみられる)関西電力は、違反について自ら当局に申し出て捜査に協力したことによる課徴金減免(リーニエンシー)制度によって課徴金を免れている。

7社は4月から規制料金を大幅値上げへ

 7社は電気料金の規制部門(法令で電気料金が規制されたプラン。従量電灯など)について4月以降、大幅な値上げを行う【図2】。

【図2】電力各社の規制部門値上げ一覧(各社が例示する従量電灯の標準モデルによる)

 規制料金の値上げ額は、【図2】の(3)にあたる。適用は4月分の電気料金からで、北海道電力と東京電力については6月分の電気料金からとなる。

 また、政府の電気料金負担軽減措置によって、1~10月まで使用した電気量ごとに補助金が充てられる。補助金の額は、一般家庭等の低圧電力では7円/kWh(【図2】中の(2))、高圧電力では3.5円/kWh。ただし、10月は、低圧電力は3.5円/kWh、高圧は1.8円/kWhの補助が実施される。

 九州電力も託送料金について4月から値上げする。九州電力の値上げ額は、一般家庭で契約:30A、月使用量:250kWhの場合、月250円(【図2】の(4))。託送料とは送電網を管理する子会社(九州電力送配電)の利用料にあたり、料金改定額がそのまま電気料金に反映される。九州電力のほかにも4社が託送料値上げを行う。

 中部電力、関西電力、九州電力の3社は(4)の託送料金の値上げのみだが、他社は揃って規制部門の30%弱~約46%という大幅な値上げに踏み切る。中部電力は唯一の通期黒字、関西電力と九州電力は複数の原発を稼働させている。ちなみに原発を1基稼働させる四国電力は23年3月期第3四半期としては経常利益77億8,000万、当期利益18億9,200万で10社中唯一黒字だったが、通期では赤字となる予想だ。

 先述のカルテルに参加していた4社のうち、唯一中国電力のみが値上げに踏み切った。中国電力は「値上げに課徴金は反映していない」としているが、消費者の理解は得られるだろうか。

(つづく)

【寺村朋輝】

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(後)

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