カリスマ起業家、澤田氏退任 HTBの「城壁都市」は未完で終わる(後)
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カリスマ起業家として一世を風靡した旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)創業者の澤田秀雄会長兼グループ最高経営責任者(CEO)が2月1日付で退任し、取締役最高顧問に就任した。矢田素史社長は続投し、会長職は空席となる。コロナ禍で打撃を受けた海外旅行事業が復調の兆しが見えたことを受け、退任を決意したとされる。
最大の疑問は、長崎県佐世保市のリゾート施設ハウステンボスをなぜ売却したのかということに尽きる。澤田氏が情熱を傾けていたハウステンボスを壮大な「城壁都市」にする構想は実現しないままで終わった。ハウステンボスを城壁都市にする
澤田氏は18年3月末、たった1人で3カ月から半年間の世界旅行に出た。秘書などは同行しない。上場企業のトップが長期間にわたって1人旅するのは極めて異例だ。アイデア力を充電するためという。実は、1人旅には秘められた大きな狙いが込められている。
それでは、澤田氏はハウステンボスの将来をどう構想しているのか。
日本経済新聞と日経BP社の共同情報サイト「NIKKEI STYLE」(18年3月17日付)のインタビューで、澤田氏は「ハウステンボスを城壁都市にする」と語っている。〈今度、ハウステンボスに城壁を造ろうと思っているんですよ。ハウステンボスをぐるりと囲って中を見えないようにしてしまうんです。欧州には、城壁の中にある都市が少なくありませんよね。それをハウステンボスでやるんです。
城壁は高さ10メートルぐらいにして、その中にロボットで動く工場や植物工場など最先端の生産拠点をいっぱい造る。広大なオフィス空間やアウトレット店も設ける構想です。城壁はテーマパークの入場口のあたりに造っていきます。来客用の大型駐車場から、入場口まで50メートルほどあるから、建設にはぴったりです。
城壁の入り口、つまりテーマパークの入り口には、でっかい門を造る。よく海外の映画に出てくるでしょう。門の重厚で大きな扉が「ギッギギィー」と鈍い音を立てて開く。内部に広がるテーマパークへの期待をさらにかき立てることでしょう。城壁の上は、テーマパークを一望できる遊歩道にして、散歩できるようにしたいですね〉
城壁都市の「100年構想」
澤田氏のアイデアはこんこんと湧き出る泉のように尽きることはない。それでも、澤田氏は満足しない。1人旅に出かけたのは、アイデア力を充電するためだ。最近は自分の発想が豊かでなくなった。世界の変化から刺激を受けたいとする「原点回帰の旅」だった。
前出のインタビューで、城壁都市の「100年構想」を打ち出している。
〈(城壁都市の)建設に取りかかったら、お客さんに「将来、こうなります」と完成予想図を見せて、一緒に夢を育んでもらう。建設資金の寄付を募ります。1人5,000円ぐらいの設定で、寄付してくれた人の名前を城壁内のプレートに刻むんです。プレートには電子チップを埋め込んで情報も記録できるようにします。「世界最大の城壁、あなたの名前を永遠に残しましょう!」とかいって宣伝する〉
〈1万円出してくれた人には名前だけでなく、写真などの映像データを記録できるようにする。アーカイブ(記録庫)です。「将来、お子さんやお孫さんが来てくれたとき、いつでもあなたの姿を見られます」っていうのはどうですか〉
〈1年に10~20メートルずつ、徐々に造っていくような形でいいんです。中国の万里の長城だって、そうやってできたと思います。5年ぐらいたてば100メートルになる。(中略)全部完成するには数十年、いや100年かかるかな〉
澤田氏の起業家人生は「小さく生んで大きく育てる」がポイント。日本屈指のカリスマ起業家である澤田秀雄氏だが、コロナ禍で大打撃を受けて、ハウステンボスの「城壁都市」構想は未完で終わった。残念、無念なりだ!
(了)
【森村 和男】
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