米中の対立は新たな局面へ:マネー戦争はキャッシュレス社会へ
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NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は、2月24日付の記事を紹介する。米中間の対立は台湾をめぐる攻防戦に発展するのではないかと関心が集まっていますが、日本を始め世界により大きな影響をもたらすのは米中の「マネー戦争」です。
昨年は日中国交正常化50周年でしたが、米中の国交樹立をもたらしたニクソン大統領の訪中は1972年でしたので、米中間でも関係正常化50周年を迎えたわけです。
しかし、日中間以上に、米中関係は緊張したままです。
その戦いは今話題沸騰中の「気球撃墜」という軍事面に限らず、マネーの分野にも拡大しています。
これまで中国はアメリカとの関係を良好に維持する狙いを込めて、アメリカの国債を1兆ドル以上も保有してきました。
ところが、昨年来、徐々にその保有額を減らし、今では9,980億ドルです。
これは2010年以来、最低レベルに他なりません。
アメリカにとっては赤字国債を買い支えてくれる最大の支援者が中国から日本に代わりました。
昨年5月のことです。
要は、中国からすれば、アメリカの財政赤字を支えるよりは、自国内の経済安定化に資金を投入する方向に舵を切ったといえるでしょう。
実は、サウジアラビアも石油売買の決済通貨をドルから人民元やルーブルなど相手国の通貨に切り替える方針を打ち出しました。
言い換えれば、「ペトロダラー」に代表される国際機軸通貨ドルの終焉が近いということです。
その背景には中国とロシアの水面下の連携プレーが隠されています。
アメリカがウクライナ戦争をきかっけにロシアへの経済制裁を強めるなか、資源大国ロシアは中国やインドに安価な原油や天然ガスを提供することで「反米ネットワーク」を構築していると言っても過言ではありません。
我々はマネーの覇者をめぐるドル対人民元、そして現金対デジタル通貨、その先に登場するであろう「キャッシュレス社会」を見据える必要があります。
その観点で注目すべきは国連が多国籍企業や途上国を巻き込んで推進している「ベター・ザン・キャッシュ(現金に勝る)」プロジェクトです。
この計画にはすでに80を超える国が参加しています。
エクアドルやソロモン諸島のような小国も参加していれば、ユニリーバやコカ・コーラのような多国籍大企業も名を連ねる多様な連合体に他なりません。
しかも、資金を提供しているのはビル・アンド・メリンダ財団、ソロス財団、米国国際援助庁、英国国際開発省、世界銀行、ビザなど官民におよんでいるのが特徴です。
彼らの狙いは、その名が示すように「現金に勝る」システムを構築、普及させることにあります。
いわゆる「電子決済」を国際的な標準に格上げしようと動いているわけです。
というのも、現金には偽札や盗難などさまざまな課題があります。
犯罪やテロの温床にもなりかねません。
そうした懸念からスウェーデンでは現金を決済額の2%以下に低下させることに成功しています。
EU全体の平均が11%前後ですから、「ベター・ザン・キャッシュ」の最先端を走っているのがスウェーデンといえるでしょう。
実は、スウェーデンでは現金の強奪事件が相次ぐという不名誉な状況に陥ったこともあり、その汚名を削ぐためにも、官民を挙げての「脱現金化」が進んだ模様です。
また、近年、新型コロナウイルスが急拡大し、感染症のウイルスが紙幣やコインを介して伝染するのではないか、という懸念も「キャッシュレス化」を加速させた要因と見られています。
いずれにせよ、EUでは「2030年までにキャッシュレス社会を実現する」との目標を掲げており、こうした動きは今後、世界的にますます加速しそうです。
また、キャッシュレス社会ということでいえば、中国も世界をリードしています。
しかも、中国はデジタル通貨の導入を進めるに当たっては「価値の裏付け」を保証するために「金(ゴールド)」の備蓄を急ピッチで進めている模様です。
何ら裏付けのない米ドルに挑戦しようというわけで、サウジアラビアやイランなどを新たに加えた拡大BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)でも、新たなデジタル通貨を共同で推し進めようとする動きが生まれてきました。
日本はこうした世界のマネー戦争に乗り遅れています。
かつて「円の国際化」を標ぼうし、アメリカを震え上がらせた時代が懐かしい限りです。
今こそ、米中のマネー戦争の間隙を突いて、アジアの通貨を束ねるバスケット制度を推進するチャンス到来と思います。
次号「第332回」もどうぞお楽しみに!
著者:浜田和幸
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