2024年11月29日( 金 )

鳥インフルエンザ、年々ヒトへの感染リスクが世界的に高まる

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鳥インフルエンザの家きん被害、世界的に過去最大

鶏卵 イメージ    今月2日、福岡県は、福岡市内の養鶏場で飼育されている採卵鶏について、鳥インフルエンザの陽性を確認し、当該養鶏場で飼育する約24万羽以上の殺処分を始めた。

 農林水産省によれば、今シーズン(日本では冬の渡り鳥が飛来する11~3月)の養鶏場における殺処分数は全国で計約1,502万羽、感染確認数も25道県で計77例、いずれもすでに過去最多を更新している。ちなみに、昨シーズン(21年11月~22年3月)は殺処分数が計987万羽、感染確認数は18県52カ所となり過去最多だった。

 このような状況は日本だけにとどまらず、アメリカでも昨年1年間で5,800万羽が殺処分されるなど過去最多を更新した。また、ヨーロッパでもEFSA(欧州食品安全機関)によれば、21年10月~22年9月の感染確認はヨーロッパ中で37カ国、殺処分は5,000万羽を超えて過去最多となった。さらにEFSAによれば、シーズンの区切りである夏には、これまで感染流行の波に分離が見られたものの、22年の夏は初めて、顕著な分離が見られなかったとしており、その結果、22年の秋は昨シーズンの同時期に比べて35%以上も感染報告が増えたとして、今シーズンはさらに昨シーズンを上回る感染拡大を懸念している。

世界的な物価高のなか、各国は新たな対策を模索

 ウクライナ戦争の影響によるエネルギー・飼料価格の高騰、ならびに採卵鶏の殺処分増加により、世界的に鶏卵の高値が続いている。たとえば、アメリカでは今年に入ってインフレ率が鈍化傾向を示す中、鶏卵の価格は上がり続けており、各国は年々増加する家きんへの鳥インフルエンザ感染拡大の対策について新たな舵取りを迫られている。

 『読売オンライン』3月4日付によると、日本の農林水産省は、養鶏場の衛生管理を鶏舎群ごとに行う「分割管理」を導入することによって、養鶏場全体が殺処分対象となることを回避する方法を大規模農場へ導入推進する方針を示していることが報道された。

 また、アメリカやヨーロッパでは、鳥インフルエンザ用ワクチン実用化に向けた動きがみられる。鳥インフルエンザ用のワクチンが存在しないわけではない。問題は、食用鳥肉がアメリカやヨーロッパで主要な輸出品であるゆえに、接種が認められていないことにある。ワクチンが接種された鳥肉は抗体をもつことになるが、それでは鳥インフルエンザに感染した結果との区別がつきにくくなるため、輸出品としての条件を失う可能性があるのだ。そのような背景により、鳥インフルエンザ用ワクチンは商業利用上の価値を認められず、これまで投資対象にならなかった。

 しかし、最悪の感染拡大状況を背景として、22年5月にEUの各国農業担当相は、鳥インフルエンザ撲滅に向けたワクチン戦略の策定に合意しており、ワクチン開発と実用への動きが進むとみられる。だが、ワクチン接種は当然コストがかかるため、安価で飼育期間が短く家禽の多くを占めるブロイラーは接種対象として想定されないとみられ、一般化はまだ先になると考えられる。

ヒトの感染例も世界的に増加

 先月24日、世界保健機関(WHO)は、カンボジアで11歳の女の子がH5N1型の鳥インフルエンザに感染して死亡したことを明らかにしたうえで、「ヒトを含む哺乳類への感染例が増加している」として、世界的拡大への懸念を表し、各国へ警戒の呼びかけた。

 H5N1型の鳥インフルエンザに人が感染した事例は、2003年以降、東南アジアを中心として中東やアフリカの一部地域などで、計800人以上の感染が報告されている。人が感染した場合、重度の呼吸器疾患がみられ、過去に報告があった感染者の死亡率は50%以上といわれる。多くの感染者が直接的または間接的に家きんなどとの接触があったことが報告されており、感染経路としては、これまでのところヒトからヒトへの連続的な感染は確認されていない。

年々ヒトへの感染リスクは増大する恐れ

 鳥インフルエンザがヒトに感染した場合の死亡率の高さもさることながら、さらに懸念されているのは、鳥類からヒトへ異種間伝播(spillover)したウイルスがヒトの内部で変異し、ヒトからヒトへ感染しやすい変異型ウイルスが発生することだ。

 その懸念は鳥類からヒトへの感染頻度の高まりと比例するが、アメリカのCDC(疾病対策予防センター)やEU当局は、自国地域におけるヒトへの感染拡大の恐れについて可能性は低いとしている。しかし、海外の専門家は、今後数年で鳥インフルエンザがヒトへ流出するリスクは世界中でさらに高まるとみている。

 リスクが増大している原因について、従来、鳥インフルエンザのヒトへの感染報告例が多い地域で、年々、野生領域に対する人為的な開発が拡大していること、ならびに気候変動による野生動物の生息地の喪失や移動が発生していること、その結果、人間と野生動物の接触可能性がさらに高まっていることが挙げられる。また、世界的な物価高を背景として、家きんの殺処分を回避する動きが安易に広がることも懸念される。一方で、コロナの小康化によって人の移動も再活発化しており、新たなウイルスによるパンデミック発生の可能性について、警戒が必要である。

【寺村朋輝】

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