2024年11月23日( 土 )

フジテック、香港ファンドとの大バトルで経営体制刷新(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

 エレベーター大手のフジテック(滋賀県彦根市)は2月24日、臨時株主総会を開いた。香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントが提案していた5人の社外取締役の解任議案のうち、取締役会議長など3人が可決された。オアシスが提案していた新たな社外取締役6人の選任議案は4人が可決された。社外取締役を株主側の提案で解任するのは、日本企業では異例だ。

オアシスが創業家の内山社長による私的流用を糾弾

 フジテックとオアシスのバトルが勃発したのは2022年5月20日。

 「内山社長の再任に反対してほしい」。フジテックの大株主、香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントのセス・フィッシャー氏が株主に呼びかけた。

 「定時株主総会で内山社長に反対票を投じ、フジテックを守りましょう」とするサイトを立ち上げた。

 サイトによると、創業者の息子である内山社長が2002年に代表取締役社長に就任してから、フジテックが中国やインドなどの成長市場での積極的な事業展開に失敗し、市場シェアを失い続けてきたと指摘したうえで、「フジテックと創業家である内山家が保有する企業との間で、多くの疑わしい取引がある」と指摘した。

 このなかには、フジテックが内山家の私的利用のため超高級マンションを購入した疑惑がある。フジテックが13年2月に取得した東京都港区元麻布の超高級マンション(現在の市場価格は7億円以上)に社員である内山社長の息子と、同社に所属していない内山社長の妻が同居していたと指摘。

 オアシス側の質問にフジテックは「トップセールスの強化を目的に、社用迎賓施設として運用していた」などと回答したが、合理性が乏しく、本来必要なはずの株主への報告がなかったとした。

 このほかに、フジテックが内山社長が保有する別の企業への莫大の額の現金の貸付、内山社長が保有する企業が行った投資の失敗を補てんするため、その物件をフジテックが買い取った疑惑など問題点を7点指摘。内山氏の退任が企業統治の改善には不可欠と主張した。

 これに対して、フジテックは、オアシスのキャンペーンについて、「まったく当たらないまたは事実誤認に基づく主張」と反論。外部の弁護士による調査などの結果、一連の行為が法的にも企業統治上も問題ないという結論を確認した。

株主総会の1時間前に内山社長の再任案を取り下げる

 フジテックとオアシスが全面対決の様相を呈するなか、株主総会を迎えた。6月23日、滋賀県彦根町の本社で定時株主総会を開催した。総会開催を1時間後に控えた午前9時、フジテックは創業家出身の内山高一社長の取締役再任案を取り下げた。総会当日に会社が提案した現職社長の取締役再任案を撤回する異例な事態だ。

 物いう株主の反対運動で、「敵前逃亡」したのだ。これには、株主ならずとも呆気にとられた。

 内山氏の再任以外の議案は予定通り株主総会に諮られ、すべて可決された。内山氏は代表取締役から外れ、取締役でも執行役員でもない「会長」となった。後任の社長には岡田隆夫副社長(68)が昇格した。

 フジテックは6月29日、関東財務局に臨時報告書を提出して、株主総会での取締役選任議案の賛否比率を開示した。新社長となる岡田隆夫氏の賛成比率は90.88%だったが、創業家との取引について調査を主導した2人の社外取締役の再任への賛成比率は7~8割台にとどまった。

 指名・報酬諮問委員会委員長・杉田伸樹氏(立命館大学経済学部特別任用教授)の賛成率は77.20%、同委員・山添茂氏(元丸紅副会長)の賛成率は80.26%だった。

 オアシスは直前の取締役取り下げと会長就任は保身だと批判。オアシスのセス・フィッシャーCIO(最高投資責任者)は株主の負託を得ずに会長にとどまったことを「実質的なクーデターだ」と追及する姿勢を示した。

6月の定時株主総会がバトルの第3ラウンド

白金 高輪 イメージ    フジテックをめぐる問題の本質は、創業家出身である内山氏による経営の支配にある。フジテックはオアシスが繰り広げた内山氏の再任反対キャンペーンの結果、再任を取り下げたが、内山氏は現在、取締役でも執行役員でもない「会長」に就いている。

 フジテックとオアシスのバトルの第2ラウンドが臨時株主総会。内山氏を会長職に残す決断をした社外取締役たちの責任を問うた。オアシスが提案した、取締役会議長を含む社外取締役3人の解任が可決された。オアシスが同時に提案した新たな社外取締役6人の選任議案は、4人が可決された。オアシスの完勝だ。

 勝負は6月に開催される定時株主総会。外堀を埋めたオアシスは、フジテックの経営権を取得するのか。フジテックはオアシスの攻撃を撃破し、内山氏の取締役復帰を勝ち取ることができるのか。フジテックとオアシスのバトルの第3ラウンドになる。

 創業家の2代目、内山高一氏は取締役に復帰できるか。それとも、オアシスに城を明け渡してフジテックを去るのか。株主総会の結果にかかっている。

(了)

【森村 和男】

(中)

関連記事