評価すべき岸田政権の実行力〜2023年が日本株の年になる可能性~(前)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は3月6日発刊の第327号「評価すべき岸田政権の実行力~2023年が日本株の年になる可能性~」を紹介する。歴史的転換を推進する岸田政権
聞く力をモットーにした岸田首相だが、その出だしはちぐはぐさが目立ち、「検討使」と揶揄されるなど実行力も疑われた。アベノミクスを継承した菅元首相の成長重視政策に対抗し、新しい資本主義を掲げ、分配重視へと舵を切り、就任早々に金融資産所得課税強化を打ち出した。これに対し、株式市場は直前の高値からほぼ3000ポイント、1割の急落となるなど、容赦ない洗礼を浴びせた。
しかしここ一年半の岸田政権の展開は、良い意味で予想を裏切り、当然とはいえ数々の懸案を片付けている。閣僚不祥事による辞任、統一教会問題の紛糾、支持率低下、など表面的にはぱっとしないが、時代を画する政策を次々に打ち出していることも正当に評価すべきであろう。
最も大きいものは、安全保障3文書の策定であろう。長らく日本の平和主義の根幹にあった専守防衛を打ち切り、敵基地攻撃能力に踏み込む歴史的転換を果たした。また防衛費のGDP比2%への目処をつけ、防衛装備品、武器輸出解禁に対して第一歩を踏み出した。
さらにエネルギー自給の向上を目指して、多くの反対を押し切り原発の再稼働促進と新規増設の検討、耐用年数の60年への延長、新たな原発技術の開発なども打ち出した。経済安全保障の柱である半導体産業育成にも一段と注力、菅政権時に打ち出された半導体産業推進は加速し1兆円プロジェクトのTSMC熊本工場第一期に次いで第二期工場が具体化している。
また最先端半導体国策企業「ラピタス」の創生と5兆円と言われる巨額投資プラン始動(日経報道)など、目を見張る変化が引き起こされている。首相は憲法改正に向けた意欲を強調、「時代は憲法の早期改正を求めていると感じている。野党の力も借り、国会の議論を一層積極的に行う」と主張している。出身母体の宏池会の持説であった平和主義の根本的転換に舵を切った。
岸田政権の「不思議な強さ」
この岸田首相の転換を、櫻井よしこ氏は以下のように評論している。「岸田氏の安保3文書の決定は、安倍元総理が主張してきたこと。だが、安倍氏の主張がどれだけ正しくても、朝日新聞を筆頭にメディアは安倍氏の正論を叩きに叩いた。岸田氏にはメディアによる非難がない。この点こそ岸田氏の強さである。不思議な強さだ。岸田氏はそれを政策推進の力に転化できるだろう」(週刊新潮2022年12月29日)。
ロシアによるウクライナ侵略、中国習近平政権の独裁化と米中対立などの現実は、戦後の空想的平和主義の限界を否応なく見せつけた。ソフトな岸田氏は頑迷な空想的平和主義者のスタンス転換を促し、挙国一致で国策を推進できる幸運な立場にある、と言えるだろう。
株高政策にシフトした、岸田政権最初の苦い薬効く
経済政策においても岸田氏は安倍政権の大枠を踏襲している。当初の主張であるアベノミクス批判と見える分配重視の「新しい資本主義」の内容を換骨奪胎し、「成長と分配の好循環」というアベノミクス路線に回帰していった。端的に言えば、株価を軽視・無視していたスタンスから株価重視スタンスへの大転換を、何のてらいもなく実行したのである。
安倍元首相は2013年ニューヨークで外国人投資家を前に「Buy my Abenomics」と宣言し日本株高を謳ったが、岸田首相も2022年5月、それを真似て「Invest in Kishida」とロンドンの投資家に日本株式への投資を呼びかけた。
内閣官房による新しい資本主義実現会議資料では、「新しい資本主義においても、徹底して成長を追求していく。しかし、成長の果実が適切に分配され、それが次の成長への投資に回らなければ、更なる成長は生まれない。分配はコストではなく、持続可能な成長への投資である。
我が国においては、成長の果実が、地方や取引先に適切に分配されていない、さらには、次なる研究開発や設備投資、そして従業員給料に十分に回されていないといった「目詰まり」が存在する。その「目詰まり」が次なる成長を阻害している。
待っていても、トリクルダウンは起きない。積極的な政策関与によって、「目詰まり」を解消していくことが必要である」として、①賃金アップ、②スキルアップによる労働移動の円滑化、副業兼業の推進、③貯蓄から投資への「資産所得倍増プラン」策定、等の具体策を提示した。これらはアベノミクスの第三の矢「規制緩和によって民間投資を喚起する成長戦略」とほぼ重なっている。
(つづく)
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