2024年11月22日( 金 )

幸福実現党を設立し、政治変革を志した大川隆法氏(前)

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 昨年7月の安倍元首相銃撃事件から政治と宗教の問題が注目を集めるなか、公称1,100万人を誇る日本有数の新宗教「幸福の科学」の創立者、大川隆法氏が逝去した。同氏は宗教団体のみならず幸福実現党も設立し、自らも立候補。いまや多くの地方議員を擁する政治団体に発展させた。これまでの同党の取り組みを振り返りつつ、カリスマ教祖亡き後の教団の行方を考察する。

全国に多数の地方議員

五反田 空 イメージ    3月2日、宗教法人幸福の科学創始者にして、政治団体幸福実現党総裁の大川隆法氏が逝去した。まだ66歳という若さだったこともあり、今後の同教団の動きに注目が集まっている。

 大川氏が幸福の科学を創立したのは1986年。24歳のとき神の啓示を受け、人類救済の大いなる使命を帯びた「エル・カンターレ」であることを自覚したという。世界各地に約1万の支部・拠点をもち、日本における信者数は公称で1,100万人、実際は50万人程度であるといわれる。87年には幸福の科学の宗教理論の基本書である『太陽の法』を刊行し、ベストセラーとなった。

 宗教団体としての幸福の科学については、さまざまなところで論じられており、そちらに譲りたいが、注目したいのは2009年に新たに幸福実現党(現党首・釈量子氏)を結成し、衆議院議員選挙に候補者を擁立して以降、政治活動にかなり力を入れたことだ。

 結党以前の幸福の科学は政策の近い自民党を応援していた。国会議員は2010年5月から12月まで参議院議員・大江康弘氏が在籍していた以外は議席を有していないが、地方議員に関しては、23年3月現在、北海道から鹿児島県までに45人の議員がいる。福岡では新宮町議会に濱田幸(みゆき)氏がいる。九州・山口では、山口県下松市議会、大分県玖珠町議会、宮崎県えびの市議会、同日南市議会、鹿児島県指宿市議会に幸福実現党の議員がいる。

 政治に関与する宗教団体は、創価学会や立正佼成会、神社本庁、霊友会、新生仏教教団など数多くあるが、戦後急速に日本社会に浸透した新宗教のなかで、新たに政党を立ち上げて政治活動に力を入れた団体は数えるほどしかない。

 その代表格は創価学会で、現在、自民党とともに連立政権の一角を占める公明党である。その源流は1954年と古く、同年11月に創価学会文化部を設置。55年の統一地方選挙で、次いで56年7月の参議院選挙で候補者を擁立。参議院大阪地方区において、プロ野球選手で創価学会初代大阪支部長でもあった白木義一郎氏が、社会党の現職や自民党の元職を破り3位で当選した。61年、公明党の前身である公明政治連盟が、64年には公明党が結成される。公明党の政治姿勢は中道路線だが、その原点は、池田大作創価学会会長(当時)が打ち出した「大衆とともに語り、大衆とともに戦い、大衆の中に死んでいく」にあるという。

 では、幸福実現党の理念はどこにあるのか。幸福実現党綱領は「党の使命」の2番目に「責任政党としての『毅然とした国家』の実現」を掲げ、次のように宣言している。「占領政策の下につくられた日本国憲法は、日本から『国家の気概』を失わせ、国家の精神性を骨抜きにしています。幸福実現党は、日本国民自らの手で憲法を改正し、勇気をもって『毅然とした国家』をつくることを目指します」。

 こうして保守政党としての性格を前面に出したうえで、「普遍的宗教理念に基づきつつ、時代の変化に合わせて柔軟にイノベーションを追求します。未来モデルをデザインし、国民の具体的幸福を実現し、世界に広げます」と、改革路線を掲げている。憲法改正やイノベーションを謳うところは、自民党や日本維新の会に近い。

政治変革を志したカリスマ教祖

 近年は、台頭する中国の覇権主義の脅威に警鐘を鳴らす主張を、幸福の科学出版が毎月発行する『ザ・リバティ』(The Liberty)において展開するなど、外交や安全保障に対する提言が目立った。ウクライナ戦争については、地政学的観点からロシアのプーチン大統領の立場を擁護。ウクライナのゼレンスキー大統領はアメリカや多国籍企業の傀儡で、世界大戦を防ぐためにウクライナは一刻も早く停戦し、NATO(北大西洋条約機構)には加盟せず中立化すべきである、日本は国益のために日露友好で行くべきである、という主張を展開している。このあたりが、自民党やいわゆる保守層と見解を異にするところだろう。

 2010年4月にはHS(ハッピーサイエンス)政経塾を開塾している。名誉塾長を務める大川氏の経典や法話などを学びつつ、リーダーとしての資質を磨く政治塾だ。日本の歴史や文化などに関する幅広い教養を身につけるとともに、体力、気力の鍛錬を通じて、政治家としての総合力を高めるための研修を行っているという。

 大川氏は党の総裁として、「霊言」というかたちを通じ、幸福実現党が日本の政治を変えなければ内部から崩壊すると、著作や講演で訴えてきた。かつてオウム真理教は真理党を結成し、麻原彰晃教祖自ら国政に挑戦したが落選。終末論に基づいて国家転覆を企て、地下鉄サリン事件など未曽有のテロに手を染めたが、大川氏はあくまで議会制民主主義の枠組みのなかで政治への関与を志した。国政や地方議会に候補者を立て、信徒に政治変革を訴え、著名な保守系文化人などに講演や機関誌への執筆を依頼して。

 筆者は数年前、元小学校教師で2016年の参議院選挙で福岡県選挙区から立候補した吉富和枝氏と話をする機会があった。「私は、北九州市や古賀市などで小学校の教師をしてきました。日本を嫌いになる自虐史観で子どもたちは愛国心をもてない教育がされています。教育を変えるには、政治の力が必要です」と熱く語っていたことが印象に残っている。

 宗教という性格上、どうしても教義や歴史上の人物が多数登場する「霊言」といったことに注目が集まるが、カリスマ教組大川氏に支持が集まった理由の1つに、一宗教の利益を超えて国を何とか良くしたいという信念にあったのではないだろうか。

(つづく)

【近藤 将勝】

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(後)

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